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涙
高校生・年上×年下・攻め視点
あの人の影を振り切るように、ただひたすら凪を抱いた。彼女に振られたところを見ていた男子生徒(凪)を抱いてしまった新の話です。
*****
左手の薬指に光る指輪を着けた彼女が俺に別れを告げる。
ずっと好きだった三つ年上の近所のお姉さん。
付き合ってくれるって言ってくれた時は本当に嬉しかった。
高一の時から二年付き合って、このまま付き合い続けて結婚とかするのかなとか想像してた自分がばかみたい。
顔を上げると情けない俺をじっと見つめる、小動物みたいな瞳の男子高校生。
制服が同じだから同じ学校の生徒だ。
近寄るとちょっとびくっとして、それから不思議そうにまた俺をじっと見る。
「名前は?」
「…凪」
「凪…、抱かせて」
「え…」
凪と名乗った男子生徒の腕を掴んですぐ近くの俺の家に連れ込む。
なぜか抵抗もせずついてくる凪。
そのまま、ただ虚しさや悔しさや哀しさをぶつけるだけのセックスをした。
凪は涙を零しながら、嫌がりもせずに俺の全部を受け止めてくれた。
あの人の影を振り切るように、ただひたすら凪を抱いた。
◇
「あの、俺、帰りますね…」
「あ、…うん」
「それじゃ…」
制服を身に着けた凪が部屋から出て行く。
同時に溜め息が零れた。
ベッドに横になり、乱れたままのシャツの胸元を掴む。
…なにやってんだ。
あんな風に苛立ちに任せて家に連れ込んでヤるとかありえない。
てか凪も簡単についてくるな。
男抱いたのなんて初めてだ。
…泣いてた。
嫌だったんだろうな。
当たり前か。
でもその涙が俺の脳裏に焼き付いて、あの人の笑顔が霞む。
このまま忘れたい。
だけど忘れるなんてできない。
ずっと好きだった、初めての恋だったのに、あんな風に他に年上の彼氏作って捨てられるとかないだろ。
結局年下じゃだめなら最初から付き合うな。
虚しさの次は苛立ちが湧き起こる。
ふっとまた凪の涙が思い起こされる。
「凪…」
そう言えば俺、自分の名前も言ってなかった。
最低過ぎる。
それにあんな事しておいて、謝りもしないとかだめだろ。
明日学校行ったら凪を探して謝ろう。
◇
って言っても凪って何年だ?
見た事ないから俺と同じ三年ではない。
一年か二年。
各教室をちらちら覗いてみるけど見つからない。
こんなの見つかんのか…?思ってたら視線を感じて振り返ったところに凪が立ってる。
「凪!」
「えっ」
「ちょっと来て」
凪の腕を引いて人気のない場所を探す。
もう寒くなってきたから屋上なら誰もいない、と思うので屋上に連れて行った。
って俺、また強引に引っ張ってる。
屋上について振り返ると凪は頬を染めて俺を見ている。
「あの、…昨日は」
これ、なんて言えばいい?
そのまま謝ればいいのか。
「えっと、その、腕…」
「え? あ、ごめん」
掴んだままだった。
慌てて腕を離す。
俺が掴んでいた場所に触れながら凪が俺をまたじっと見る。
この視線、なんだろう。
「昨日はご」
「あの事は謝らないでください」
謝罪の言葉を遮られた。
凪の顔を見ると、凪は泣きそうな顔で俺を見る。
なんでこんな目をするんだろう。
「一日だけの夢だって思ってますから」
「ほんとにご」
「だから謝らないでください、新先輩」
「……」
なんで俺の名前知ってるんだろう。
でも絶対凪は傷付いてる。
謝りたい。
でも謝ろうとすると凪は言葉を遮って謝らせてくれない。
「いいんです。俺には一生分の幸せが詰め込まれた時間だったから」
「?」
「ずっと見てました。好きです、新先輩」
好きって言われても、あんな事あったばっかだし。
ていうか凪、男じゃん。
「えっと…俺も男だけど…?」
「知ってます。でも新先輩だから好きです」
「……」
まっすぐ俺を見る凪。
なにかを考える様子を見せて、それから凪がまた口を開く。
「…弱ってるとこにつけ込むみたいで嫌ですけど、俺をあの女性を忘れるために利用しませんか?」
「え?」
「忘れさせてあげます。俺の全身で」
「……」
「なんて…一回抱いてもらえたからって、調子乗り過ぎですね」
「……」
どうやって忘れさせるって言うんだ。
あんなに好きだった人なのに。
そう思うのに凪の手を掴んでしまう。
「…先ぱ…っ」
なんでキスしてるんだろう。
唇の柔らかさにゾクゾクする。
唇を離すと間近に凪の潤んだ瞳。
そこに映る俺は余裕のない目をしている。
「こっち」
陰になる場所に連れて行き、もう一度唇を重ねる。
凪の制服を乱し、俺の膝に跨る凪の蕾をほぐす。
なんで謝るつもりで凪を探したのに、こんな事してんだ、俺。
俺が俺でなくなったように凪を求める。
ゆっくり俺の昂りの上に腰を下ろす凪の腰を支える。
熱い内壁に包まれていく感覚にゾクッとしながら、凪の動きに快感を得る。
「ぁっ、っ…せんぱぃ…っ、っ…!」
「凪…」
凪の零す涙に触れると、不思議とあの人の影が薄れる。
「っ、凪…」
凪の涙に触れ続ければ、本当に忘れられるかもしれない。
「…っ、あ…っ!!」
凪の白濁に触れるのは二度目。
それなのになぜか、ずっと前から知ってるような感覚。
凪に触れれば触れるほど、あの切ない恋が掠れていく。
「ごめんなさい、俺だけ先にイッちゃって…」
「いや、大丈夫」
俺はイッてないのに、なぜか満たされている。
凪に触れたから?
凪ってなんなんだ。
「新先輩も…イッてください」
「辛いだろ。今日はここまでにしよ」
「……今日“は”?」
「忘れさせて、凪」
俺の言葉に凪の瞳が揺らめいて、涙が落ちる。
思わずキスしたくなって、その思いのままに行動する。
唇の柔らかさに、突然どきどきし始める。
「絶対忘れさせてあげます。俺を好きにならなくていいから、そばに置いてください」
なんだろう。
わからないけれど凪のまっすぐな視線は心地好い。
なにかに縋りたいだけなのか。
あの人を忘れられるなら凪でなくてもいいのか。
よくわからないけれど凪を手放したくなかった。
一日だけの夢で終わらせたくなかった。
この気持ちはなんだろう。
もう一度キスをするとやっぱり凪は涙を零す。
その涙に触れながら、俺は鼓動の速さに戸惑った。
END
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