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だがその後、私を待っていたのは新たなる恐怖だった。街ゆく中すれ違う異性、笑いかけてくる男性店員。その全てに対して、突然襲ってくるかもしれないという疑念を抱くようになったのだ。
彼の顔がチラついた日には、あの記憶が頭の奥に映し出されループする。止められない焦りから動悸が激しくなると一人になれる場所で呼吸を落ち着かせる。必死で勉強して目標の大学に進学出来、鬱屈とした息苦しい空間からやっと開放された今でさえ、いるはずのない彼が襲ってくる現象は依然として続くのだった。
それを何度も繰り返すうち、段々と腹立たしさが込み上げてきた。なぜ私ばかりこんな目にあっているのか。きっともう私のことなど遠に忘れているあいつはのうのうと生きているのに、なぜ苦しむ私が幸せになれないのか。
だから私は過去のトラウマを克服すべく、二十歳を超えたその日から夜の街にくりだすようになった。
現実はそう単純なものでないというのはすぐにわかった。他の誰かと性行為をすればきっとあいつを私の中から追い出せると思ったのだが、いざベッドに押し倒されるとまるで電源を入れた機械のように体が勝手に震え出すのだ。それに便乗して怖いという感情が胸を埋めつくし、途端に目の前にいる誰かを拒絶してしまう。話が違うと相手が無理やり私を押さえつけようものなら、あいつの姿が相手に重なり激しい動悸とともに過呼吸を起こす。そこまでいけば相手は私を離してくれるので、荷物を引っ掴んで部屋を飛び出す。
こんなはずじゃないと意地になる私はこりずに何度も男の人を誘うのだが、結果はいつも同じだ。あいつの姿は消えるどころか、段々とはっきり思い出されるようになっている気さえする。
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