震える

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 「あの、助かりました。あの人すっごく怖く...」  「どうしてあんなことしたの。」  私を遮るように聞こえた言葉を理解出来ず、私はその人を見た。私よりも頭一つ分ほど高い位置にある顔が振り返り、私と目が合った。肩幅が広くがっしりした風貌のその人は、茶色い髪を前髪ごとハーフアップにした男性のようだった。  「どうしてって...」  すわった目つきで見下ろされていることに少し怖さを覚えた私は目線を下げる。  「あそこで君があの男を誘ってるとこ、見たから。」  そう言われ、どきっとした。私の見苦しい演技も見据えていたとわかった瞬間、恥ずかしさで顔が熱くなってきた。  「もう二度としちゃだめだよ。いつも逃げ切れるわけじゃないんだからね。たまたま運が良かったって思った方がいいよ。」  その人が言うことは何一つ間違っていない。だが私は不覚にも反抗してしまった。
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