生まれ変わりと限界

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私が、『私』でいられる内に、どうか――誰か、私の話を聞いて欲しい。 私の名前は、秋月(あきづき) 結布子(ゆうこ)。 今年で36歳になる会社員だ。 私の父親には、昔、大層仲の良かった母親(私にとっては祖母にあたる)がいた。 名前を、結月(ゆづき)という。 しかし、この母親は39歳の時、まだ若かった私の父を残して亡くなってしまう。 死因は、かなり重篤な心臓の病による病死だ。 そんな祖母は父をかなり溺愛しており、亡くなるその瞬間まで、気が弱くて真面目な父の事を心配していたらしい。 そうして、亡くなる際……今わの際に、祖母は父にこう告げたのだそうだ。 『安心してね。私は必ず、直ぐに生まれ変わって――今度こそ、ずっと……長く、あなたの側にいてあげるから』 それからピッタリ30年後、私が産まれる。 産まれた私の顔は、幼いながらもその祖母の顔にそっくりだったそうだ。 更に、背中や顔のほくろの個数から位置までも同じで――年を経た今では、私は、遺影として飾られている生前の祖母の容貌に更に生き写しな顔となっている。 自分でも、戦慄してしまう程に。 そのそっくりさ加減は、盆暮れ正月に父方の親族に会う度、酷く驚愕される程で。 別に、祖母に似ていると言われたり、驚かれるのには慣れてきたし、嫌な事ではない。 祖母は、父にとっては大切な存在だったのだし、祖母がいなければ、そもそも父は産まれず、私もこの世に存在していなかったのだから。 ただ――。 私には、1つ心配な事がある。 年々似て来る顔を鏡で見ると、私は、つい、こう考えてしまうのだ。 『果たして【私】という存在はちゃんと【私】という存在なのか』 と。 もしや、私は――心配した父の母親が、父を見守る為だけに生まれ変わった存在で、この顔も存在も、祖母の借り物なのではないか。 そう考えると何だか恐ろしく、正直、ふるえて眠れない夜もある。 というのも、実は先日、朝の通勤電車から降りる際、同じく降車するサラリーマンの方の鞄に思い切り右手の甲をぶつけ、そこに変わった形の痣が出来てしまった。 帰宅した際、その痣を見た父が、開口一番にこう言ったのだ。 「母さんと同じ場所に、同じ痣が出来た……」 そう呟いたのを聞いて、私は心の底からぞっとし――体が冷えていくのを感じていた。 3年後には、私は祖母と同じ歳になる。 その時まで、果たして【私】は【私】でいられるのだろうか。 誕生日が近付く度、私の心は慄き、ふるえている。
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