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「んなわけねえだろ!」
たっくんが焦っている声がする。
「でも、竜也さんに女ができたとしたら、相手はあの女しか考えられねーっすよ。ガキの頃からずっと一途に想い続けてたじゃねえっすか」
「それは……ガキの頃の話だ!」
誰だって、生きていればいつか誰かを好きになる。
私にも好きな人がいた。
私をいじめから助けてくれたヒーローみたいなあの男の子。
木更先輩……。
だけど、たっくんにもそんな人がいたなんて私は今の今まで想像もしていなかった。
たっくんの初恋。それは今で、相手は私。
そんなことを夢見てしまっていたけど……。
違ったの⁉︎ たっくん!!
ショックを受ける私がいるとも知らずに舎弟さんは意気揚々と話し続ける。
「俺と竜也さんが出会ったのもあの女のおかげでしたよね。自分よりデカくて強い敵がいても、あの女のために怯まずに向かっていった竜也さんに俺は惚れたんす。あの時の竜也さん、マジかっけえかったっす!」
「うるせえ、やめろその話は!」
「竜也さんが他の女に目もくれねえのは、あの子以外の女を好きにならないようにしてるからっすよね。俺、竜也さんのそういう熱いとこも尊敬してるっす!」
「だから、やめろって言ってんだろ!」
「顔が真っ赤っすよ、竜也さん。あの女の話になるといつもそうっすよね」
がーん!!
私はガックリと膝をついてしまった。
顔が赤くなるのはたっくんが本気で照れている証。私といる時だけそうなると思ってたのに……。
たっくんの心の中にはまだその女が棲みついているってこと?
やだやだーっ! 初恋の女のことなんて、たっくんの中から消えてよーっ!
床に崩れて半泣きしそうになった時だった。
「なんて言ったっけ、あの子……確か、ゆ──」
「黙れ!!」
舎弟さんが言いかけた言葉を、たっくんが必死で遮った。
ゆ?
初恋の女の名前かな。
ゆうこ? ゆき? ゆりえ? ゆづ……?
ゆがつく女の子の名前なんてたくさんある。
ゆだけじゃ誰のことなのかさっぱり分からない……。
ああもう、謎の女、U子への嫉妬で狂っちゃいそうだよーっ!!
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