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公園にいる女──すなわち乙原夢乃が危ない。
朔太郎はハラハラしたが、中学生が怖くて動けなかった。
夢乃をいじめて置き去りにした挙句、こんな喧嘩に巻き込んでしまって、それでも何もできない自分が情けないと思った。きっかけを作ったのは自分なのに。
イケメン男子の言うとおり、夢乃に素直に謝りに行けば良かった。
朔太郎が後悔したその時だった。
夢乃のところに向かおうとした中学生の背中に、イケメン男子がいきなり飛び蹴りを放った。
不意打ちを喰らった中学生は顔から転んで鼻を地面にこすりつけた。
「な、何しやがる!」
「あいつに近づくな! 近づいたら殺す!」
無謀だが勇気のある小さな背中に、威圧感あふれるオーラが見えた。
「かっけえ……」
朔太郎は思わずそう呟いていた。
「上等だ! やれるもんならやってみろ!」
本気でキレた中学生がイケメン男子を連れて行く。鉄道の高架下の薄暗い自転車用通路でリンチにするつもりだ。
朔太郎は気になってしまい、喧嘩の一部始終を高架下の出口から見ていた。
結果を言えば、イケメン男子が勝った。
どこかにあった金属バットのようなもので殴られて頭から血が出ていたけれど、それでも恐れず向かってくる彼の気迫に中学生たちがびびり、五人とも逃げていったのだ。
のちにこの様子を見ていた数人の目撃者により、彼に最強の不良という悪名がつき、伝説化されていくことになる。
「だ、大丈夫っすか⁉︎」
全てが終わった後でやっと朔太郎が声をかけると、イケメン男子は鋭い目で朔太郎を睨んだ。
「見てたんなら加勢に来いよ。腰抜け」
「すいません……それより早く病院に行かないと」
「越してきたばかりで……どこにあるのか分かんねえ」
「じゃあ案内します」
朔太郎はイケメン男子の腕を肩に乗せて歩くのを助けてあげた。
「強かったっすね。喧嘩」
「……初めてやった」
「マジっすか⁉︎ そうとは思えない強さだったっす!」
朔太郎は初めてなのに堂々とした戦いっぷりを見せたこのイケメン男子に尊敬と憧れを感じずにはいられなかった。
「俺、可児朔太郎って言います」
「俺は……佐治。佐治竜也」
竜也さん、と繰り返すと、彼は照れくさそうにプイッと横を向いた。
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