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私と先輩は駅の西口の入り組んだ路地裏に連れて行かれた。
バイク二台がようやく並べる幅しかない、建物の間のゴミ捨て場のような路地だ。当然そんなところにはひと気もない。
一つしかない街灯の下で、私たちは行き止まりの壁を背にして出口を塞がれている。
「ここの、どこが遊び場なんですかっ、何にもないじゃないですかあっ」
絶体絶命という四文字熟語が頭に浮かぶ。
助けを呼びたいけど、ここに来る途中で私のスマホは電源オフにさせられてしまっていた。
誰かからの着信が来ていたのに、相手を確認することもできなかった。
帰りの遅い私を心配してたっくんが電話をかけてきたような気がしたんだけど……。
ごめんね、たっくん。お腹が空いて倒れそうなのに……。
マイバッグの中のネギも心なしか萎れているように見える。
こうなったら頭のいい木更先輩だけが頼りだ。
「先輩……」
怖くてブルブル震える私を見て、先輩はそっと私の手を握った。
「ごめんね、巻き込んで。でも大丈夫。僕の命に代えても君には指一本触れさせないよ」
先輩はよほどこの場から切り抜ける自信があるのか、まだ余裕の笑みを浮かべていた。そう言われても、相手は場数を踏んでいるはずのヤンキーたちだし怖がるなという方が無理。
「先輩……喧嘩したことあるんですか?」
「こういう事態に対処できるように、護身術くらいなら習ったことがあるよ。暴力は嫌いだけど仕方ない。君を守るためだからね」
少女漫画の王子様みたいにキラキラとした瞳で微笑む先輩。
強がっているようには見えなかった。もしかして、勝算があるの?
「てめえらイチャつくのもいい加減にしろ!」
ついにヤンキーがキレて、先輩に殴りかかってきた。
「夢乃ちゃん、下がって」
「は、はいっ」
言われた通り、壁のギリギリまで退避すると、先輩は華麗に不良の攻撃をかわして逆に反撃のカウンターを当てた。
他の二人も同時に襲いかかったけど、先輩はこれも見事にかわす。
私はびっくりして口を開けてしまった。
先輩……もしかして意外と強かったりするの?
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