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「壁ドンや顎クイなんて典型的な俺様キャラがとるような行動、大喜びされるのは少女漫画の中だけですよ! リアルではドン引き以外あり得ないですから!」
私は先輩に向かって威勢のいい啖呵を切った。
スカッとした。と思ったのは一瞬だった。
ご自慢の顔を殴られた先輩がゆっくりと私を見下ろす。その逆上した目が恐ろしくて、私は冷水をかけられたような気持ちになった。
「よくも僕の顔を叩いたな。せっかく僕がここまで下手に出てあげたのに……!」
「きゃあっ」
先輩がマイバッグをぶら下げた私の手首を強引に掴んだ。その拍子にマイバッグが地面に落ちて、グチャっと嫌な音を立てる。
「あああああっ! しめで鍋に投入しようと思ってた卵とじうどん用の卵が!!!」
今の音は確実に殻が割れたに違いない。
たっくんのために買った食材が、幸せの象徴が、ネズミが行きかっていそうな暗い路地裏の地面に落ちて卵まみれになってしまった。
「何をするんですかっ! たっくんが食べるのを楽しみにしていたのに……!」
「佐治くんが?」
木更先輩の眉がピクッと動いた。
ハッ。
また私は余計なことを言ってしまったんじゃ……。
そう思った瞬間、木更先輩の足が私のマイバッグを上から踏み潰した。
中身の野菜がさらに粉砕されたような音がした。
「あ、ごめん。足が滑った」
高そうな靴でグリグリと平らにされる無惨なバッグの姿を、私はただ茫然と見ていた。悲しみと恐怖で喉が締めつけられて、大きな声を上げることもできなかった。
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