これが本当の修羅場です

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「最後のチャンス……?」 「さっきの非礼を謝って、素直に僕のものになりますって言うんだ。そうしたら彼らからは解放してあげるよ」  先輩は嘘みたいに優しい顔をしていた。 「おい、木更。勝手なこと言うんじゃねえよ。せっかく楽しもうとしてたとこなのに」 「黙ってて。彼女の返事が聞こえない」  覇王のオーラでヤンキーたちを黙らせた先輩が、再び私の前に立ちはだかって究極の二択を迫る。 「僕のものになるか、こいつらの餌食になるか。どっちがいい?」    私はギュッと目を閉じた。 「私は……」  こんなこと、一秒だって迷う余地はない。  私の愛する人はひとりだけだ。   「どっちのものにもなりませんっ! 私はたっくんの──佐治竜也の女です……っ!」 「バカな子だ」  吐き捨てるように言って、木更先輩が私に背を向けた。  バカでもいい。  私はたっくんを最後まで裏切らなかった。そんな自分を誇りに思う。  辛い時こそ、とりあえず笑顔だ。  私が持っている最終兵器の必殺技で、この苦難に立ち向かおう。 「へへっ……」  泣きながら無理やり笑おうとした時、路地裏の出口に向かって歩いていた先輩の足が止まった。  そして次の瞬間。  彼の体は真横にあったビルの外壁にめり込んだ。  衝撃音に驚いてその場にいた全員の動きが停止する。  私も驚いて振り向いた。  そこにあったのは、二つの人影だった。  一人は木更先輩。壁に背中を張りつかせている。もう一人は木更先輩の胸ぐらを掴んで壁に押しつけている──。 「俺の女に手を出すなって言ったろ。殺すぞ」  メラメラと燃えるような赤い髪で悪魔のように恐ろしい声をした魔王様──佐治竜也がそこにいた。
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