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「たっくん……」
幻かな? と思った。だってたっくんがこんなところに来られるはずがない。
助けを呼べなかったし、スーパーからも離れてるし、たっくんは立っているのもやっとなくらいフラフラしていたし。
だけど、それにしてはリアルですごく……かっこいい。
「夢乃から手を放せ……! てめえら全員地獄に送るぞ!」
「佐治……!」
私を取り押さえていた三人もびびっちゃって私を拘束する手の力を緩めた。
この人たちも見えているってことは、幻じゃないんだ!
笑顔になりかけた瞬間、木更先輩をの胸ぐらを掴んでいたたっくんの手が震えながらだんだんと下がっていくのに気がついた。
握力がなくなってるんだ。
やっぱりたっくんはまだ万全じゃない。走ってきたせいか息も上がっている。
それを見て、痛みで歪んでいた先輩の顔にも不敵の笑みが浮かんできた。
「どうしたの、佐治くん。僕を殺すんじゃなかったの?」
たっくんは震える拳で悔しそうに先輩を睨んだ。
「たっくん……!」
私は思わず叫んだ。たっくんが振り向く。
「夢乃……すぐに助ける」
フラフラした足取りでたっくんがこっちに近づこうとする。でも、体がかなり左右に揺れていてまっすぐ前に歩けないみたいだった。
「無茶しないでくださいっ!」
「へえ。佐治くん、無茶してるんだ」
木更先輩が嬉しそうに呟いた。そして、私を押さえ込んでいた三人に向かって
「ねえ。追加報酬出すから、このバカ返り討ちにしてよ」
と命令した。
佐治竜也を倒せるチャンスは美味しいと思ったのか、追加報酬に目が眩んだのか、三人は私を放り出してたっくんの方へ向かった。
「や、やめて! やめてよーっ!」
私は泣きながら叫んだ。
たっくんはもう喧嘩できる体力なんて残ってないのに!
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