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「なんとかするって、どうするつもりだよ? てめーはもう終わりだろうがよっ」
不良の声にハッとして、私は現実に戻った。
彼が笑いながらたっくんに右ストレートを打ってくる。たっくんはそれをギリギリで避けた。
フラフラしているけど、たっくんの目は死んでいなかった。
「……終わらねえよ。夢乃をここから逃がすまでは」
「は? 何言ってんだ。俺らに一発も殴り返せねえくせに──」
その瞬間、たっくんの恐ろしい眼力が襲い掛かろうとしていたヤンキーの眉間を撃ち抜いた。彼は殴りかかったポーズのまま一瞬固まった。
「てめえらの攻撃なんか何発食らっても効かねえよ。俺はただ腹が減って動けねえだけだ」
「強がり言ってんじゃ……」
文句を言いかけた他の二人も、たっくんに睨まれて竦んでしまった。
「どけ。俺はもう人は殴らねえと誓ったんだ。これ以上俺の邪魔をするな」
「あっ……」
私は驚いて思わず呟いた。
そういえば、そうだった。
私、たっくんと余計な約束をしていたんだった!
「だからたっくんはその人たちに手を出さなかったの……⁉︎」
こんな時なのに、たっくんは私との約束を守ってくれていたんだ……。
感動に震えている私を護るように、たっくんが彼らと私の間に立った。
フラつきのない堂々とした真っ直ぐな背中が言う。
「俺を殴りてえなら好きなだけ殴れ。ただし、夢乃にだけは手を出させねえ。あいつは……俺が死んでも守る」
ズキュキュキュキュキューーン!!!
たっくんと対峙している三人のヤンキーの心臓からもそんな音が聞こえてきたような気がした。
彼らの顔からは嘲りの笑みが消え、たっくんを讃えるような眼差しさえ感じられた。お金で操られている彼らとたっくんとじゃ背負っているものが違う。彼らもそのことに気づき始めているようだ。
「何やってんだ! 早くそいつを片付けろ!」
焦ったのは木更先輩だった。自分の手足として使っていた人たちが動かなくなったんだから、不安になって当然だろう。
「約束の二倍出すから動けよ! っていうか何でそんなフラフラしたやつ倒すのにここまで時間かかってんだよ! 本気出せよ! 弱すぎだろお前ら!」
「ああ?」
木更先輩に弱すぎと言われた三人が一斉に先輩を睨みつけた。
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