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「何だとコラ」
「ざけんなよ、クソが」
「だったらてめえでやれや」
今までいいようにこき使われていたヘイトも溜まっていたらしく、彼らの怒りに火がつくのも速かった。
「何だお前ら……僕に逆らうのか?」
「逆らうも何も、俺らはお前と取引してただけじゃねえか。勘違いすんなよATM」
三人がたっくんの横を通り過ぎて私の方へ──木更先輩の方へ向かってくる。危険を察知した先輩が、私の首に腕を巻きつけた。
「きゃあっ」
「夢乃!」
たっくんの目の色が変わる。
「佐治、そいつらから俺を守れ。さもないとお前の女がどうなるか──分かってるな?」
「とことん腐ってんな、てめえ」
ヤンキーたちさえも嫌悪する下衆っぷり。本当に最悪だよ、木更先輩!
怒り心頭になった私は、たっくんに向かって叫んだ。
「たっくん! 私のことは構わないで、先輩をやっつけてー! ぶん殴ってけちょんけちょんにやっちゃってくださーい!」
「余計なことを言うな、このバカ女──」
先輩の罵倒を耳元で聞きながら、私はバッグの中に手を突っ込んで底に集まっていた生卵を掬った。
「バカって言うなっ!」
私は手のひらいっぱいに掬ったヌルヌルの卵を、先輩の顔に思い切り投げつけた。
「うわっ、何だこれ──」
生卵が目に入ったのか、先輩は私を放り出して顔をゴシゴシ拭いた。
「クソッ、ベタベタす……」
先輩は気づいていただろうか。
自分が文句を言っている間に、たっくんが目の前に迫っていたことを。
次の瞬間には、たっくんの拳が自分の自慢の頬を潰して、自分の体が宙に浮いて、路地裏の隅のゴミ捨て場にぶつかって、最後に地面を舐めることになっていたことを。
気づかなかったかも。
たった一発で、先輩は完全に意識を失っていたから。
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