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「たっくん……!」
木更先輩に渾身の一撃をくらわせた後でその場に膝をついたたっくんに、私は抱きついた。
「や、やめろっ……照れんだろ! そういうのは二人きりの時にしろって言ってんだろが!」
たっくんの顔から炎が出る。
さっきの凛々しさとのギャップがたまらない。
やっぱりたっくんはこうでなくちゃ。
私はたっくんの言葉を無視して強く強くたっくんの首に抱きついた。たっくんの真っ赤な耳に頬を寄せると、たっくんもおそるおそる私を抱きしめ返してくれた。
「無事でよかった」
優しい声に、もう一度だけ涙が出た。
私、たっくんの女で良かった。
「竜也さん! 遅くなってすいません、木更は──」
その時、路地裏の出口の方から別の声がした。
パッと離れて振り向くと、以前たっくんの家の前で見かけた四人組の一人の、明るい金髪で快活そうな男の子がいた。
彼は膝をついているたっくんを見つけると血相を変えて走ってきた。
「大丈夫っすか、竜也さん! こいつらにやられたんすか⁉︎」
「誰にもやられてねーよ」
木更先輩のお仲間だった人たちは呆れたように笑った。彼らからはもう敵意は感じられなかった。
「それで、木更は?」
「俺が倒した」
たっくんの向こう側に倒れている木更先輩を見つけ、舎弟さんは汚いものを見るような目つきで見下ろした。
「あーあ。完全にのびてますね。俺の殴る分も残しておいてくださいよ、竜也さん」
「何でお前の分がいるんだよ」
「だって……」
と、何気なく振り返った舎弟さんと私の目が合った。
「あっ⁉︎ お、お前は……!」
「えっ?」
私の存在に今気づいたのかな?
それにしてはやけに驚いてるなと思ったら、舎弟さんは嬉しそうに笑って言った。
「やっぱり、乙原夢乃だよなっ? 俺だよ、俺! 覚えてる⁉︎ 小、中とお前と同じガッコーだった可児朔太郎!」
「可児……くん?」
意外な自己紹介をされて、私の脳みそがちょっとバグった。
「そーだよ! お前に意地悪していつも泣かせてた悪ガキの朔太郎だよ!」
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