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本物の王子様
◇
熱々の真っ赤なお鍋を見た瞬間、たっくんのお腹から地獄の使者の唸り声がした。
我が家の定番、赤から鍋だ。
豚バラ肉がたっぷりで、大きくカットされた白菜、豆腐、もやし、ニラ、ネギなどなどが辛うまスープの中でグツグツ踊ってる。
「さあ、お腹いっぱい召し上がれー!」
お母さんが上機嫌の笑顔でたっくんに言った。
「じゃ……、いた」
「いただきまーす!」
たっくんよりも先にそう言って箸をつけようとしたのは可児くんだった。たっくんはすぐにものすごく怖い目で可児くんを睨みつける。
「さ、さーせん! 竜也さん、どうぞ!」
「おう」
たっくんはおそるおそる菜箸で肉をとり、自分の器に入れた。レンゲスプーンで他の具と一緒にスープも取り、震える手で器を持ち上げて汁をすする。
ごくっと一口飲んだ瞬間、たっくんは真っ赤な顔をして俯いた。
「どーーーしたんすか竜也さんっ!! 辛すぎて痺れたんすかっ⁉︎」
「騒ぐな……ただの猫舌だ」
「たっくん大丈夫⁉︎ お母さん、水持ってきて!」
「はいはい」
ニコニコしながらお母さんがキッチンに戻っていく。リビングのソファーでくつろいでいたお父さんも羨ましそうにこちらに首を伸ばす。
「何だか楽しそうだからお父さんも混ざりたくなっちゃうな」
「やめなさいよ、さっきもう食べたでしょ」
すぐに戻ってきたお母さんがたっくんの前に水の入ったグラスを置く。
「はい、たっくん」
「あ……どうも」
「ちょっとお母さん! たっくんをたっくんって呼ぶのはやめて! 馴れ馴れしすぎ!」
「あらやだ。妬いちゃって」
家に連れてくるんじゃなかったかな。私は一瞬、後悔した。
……なんていうのは冗談で、ボロボロのたっくんをあたたかく迎え入れてくれたお父さんとお母さんにはものすごく感謝をしている。
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