一緒に帰るぞ。

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「はわ……はひぃ。だいじょーぶでえす……」  呂律がまわんなくてごめんなさい。恐怖で頭がおかしくなってしまいました。  いつ失神してもおかしくないけど、ここで倒れたらまた厄介なことになるので踏ん張っております! 『見上げれば、ほらすぐそこに、佐治竜也。』  17音で一句読んでしまった。そんな場合じゃないのに。    一つだけ救いだったのは、たっくんが私から完全に目を逸らしてくれていたことだ。  皮膚の見えているところを全部真っ赤に染めながら、恥ずかしさに耐えつつ、私には指一本触れないぞという気概を感じる。  守られている……気がする。  ちょっぴり、かっこいい……気がする。    距離のせいかもしれないけど、さっきからドキドキが止まらない。  その胸の高鳴りは、怖さとはちょっと違う音に聞こえた。    やがて電車は最寄駅に到着した。  たった二駅だから貼り付けにされていたのは五分程度の時間だったと思うけど、まるで一時間くらいそうされていたような疲労があった。   「あ、あの……私はここで降りますね。どうもありがとうございました」 「俺もこの駅だ」 「えっ、そうなんですか?」  またまた、一緒に駅の改札を潜る。  どこまでついて来るつもりなんだろう。  さっきよりはそんなに嫌じゃないと思える。だけど、家バレだけは絶対にしたくない!  意外といい人かもしれないけど、悪い人がちょっとだけ見せる優しさって通常の10倍くらいは補正がかかっていると思うし!  家がバレた途端、ストーカーみたいになって、親がいない時間を把握されて、寝込みを襲われたり……あるかもしれない! 「あ、あのう……」 「何だ」  ギン! と睨まれて、私はちょっぴり竦みながら必死に微笑んだ。 「たっくんのお家って、この近くなんですか?」  こうなったら、相手の家を逆に把握して、こっちは全然別の方角だとニセの情報を流して撹乱させる作戦を決行する。  ごめんね、たっくん。これもあなたから身を守るための防衛策だから。  するとたっくんは前方にそびえる三階建てのアパートを指差した。 「あそこ」  私は絶句した。  ……ちょっと待って。  あのアパート、私も住んでるんですけど!! 「同じ階だよな。たまに見かけた」  しかも、まさかの超ご近所さんでした。    
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