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「ひえええ〜? すっごい偶然ですねっ! あは、あは、あは……」
知らなかった……。
二年間住んでたこのアパートがまさか魔王の住む城だったとは……。
いつの間にか、家族ごと魔王に囚われていたとは!
もう逃げられない。
私って、どこまで運が悪いんだろう。
「夢乃」
絶望しながらアパートの前に着いたその時、ちょっと真剣な雰囲気でたっくんが私を呼んだ。
私はつられて真面目に向き合う。
「は、はい……」
たっくんは広い横断道路を渡ろうとしているみたいに、右を向いて左を向いてもう一度右を向いてから私を見た。
「さっきは……お前の気持ちを疑うようなことを言って悪かった」
──やっぱりお前、俺のこと好きじゃなかったんだろ。
あれか。
確かに、あの時の顔は怖かった。
謝るなら文言よりも顔面の方で謝ってほしいけど。
「もう、いいんです。分かってもらえたら、それで……」
「お前の気持ちは、嬉しかった」
たっくんは赤くなりながら「だけど」と呟く。
「電車の中とか目立つところで、あんま大きな声で……好きとか言うなよ。周りの奴らからもジロジロ見られたし……照れんだろ」
たっくんは恥ずかしそうに口元を覆って顔から湯気を出した。
いやいやいや。言わせたのは、あなたでしょう⁉︎
みんなが見てたのもあなたの髪が赤いせいだしっ! みんな怖がってただけだし!
何で私が注意されなきゃいけないのーっ⁉︎
あんな公開処刑させられて、こっちが恥ずかしいよ、まったくもう。
私の頬もぷち怒りと羞恥心で火照ってくる。
「甘えたい気持ちも分かるけど、あんまイチャイチャしてっとからんでくる輩もいるから、気をつけねえとな」
「ご、ごめんねたっくん。もう好きって言わないようにするね」
「いや……」
口ごもるたっくん。
なに? 好きって言ってほしいのか⁉︎
うぅ、悔しいけどドキドキする。
たっくんが真っ赤な顔で懸命に私を見つめようとしているから、私も視線が外せなくて……。
緊張感で喉が渇き始めた時だった。
たっくんが意を決したように口を開いた。
「俺らが付き合ってることはあんまベラベラしゃべんねー方がお前の身のためだと思う。けど、その代わり……」
「その代わり……?」
「二人でいる時は……遠慮しなくていいからな」
照れ顔で、たっくんがボソッと言った。
か、勘違いしないで!
あんたなんて、好きじゃないんだからねっ!!
……と言いたいけど、なんかキュンとしちゃったよ! どうしてくれるのさ。
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