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「はい……」
私はモジモジしながら頷いた。
恥ずかしい。
早く家に帰りたい!
するとたっくんは。
「遠慮しなくていいからな」
蒸気機関車みたいに湯気を出しながら、もう一回同じことを言った。
……ん? もしかして、何かを期待されてます?
「え、えーと……その……」
好きって言えって? ここで?
辺りをキョロキョロ見回してみる。幸い、ご近所の人は誰もいない。
でも恥ずかしい!
「あの、こんなところじゃ……ちょっと」
「あ”あ?」
「わ、分かりましたっ。言いますっ」
脅されたので仕方なく。
「す……好きです、たっくん……」
私は顔を覆いながら告白した。
くそう、魔王め。
純情むすめの私に何度こんな恥ずかしいことを言わせるのっ?
恥辱に震えていたその時だ。
「……俺も……夢乃が……」
死に際の蚊のような声がした。
チラッと指の隙間から覗くと、たっくんも地雷を踏んだような顔をしてプルプル震えながら耐えていた。
言わせたくせに、自分も被爆しないでよっ!
「それじゃ!」
もう耐えきれなかった。私は一目散にアパートの階段を駆け上がって自宅に戻った。
「もーう! 最悪ーっ!」
制服も脱がずにベッドにばふんと飛び込んで、枕に顔を埋める。
なんで私がこんな目に。
木更先輩が好きなのに……今や私は魔王に囚われの身となってしまった。
明日からどう生きていけばいいのか分からない。
ふと横にあった勉強机の方に顔を向けると、そこには木更先輩の卒業式の日に精一杯頑張って撮らせてもらったツーショット写真があった。
人気者だった木更先輩のそばにはいつも人だかりがあって、なかなか近くに行けなかったな……。
順番を待ちに待って、ようやく声をかけた時だった。
私に奇跡が起きた。
「君、あの時のドジな子だよね」
階段で助けられてから三ヶ月以上経っていたのに、先輩はまだ私のことを覚えてくれていたのだ。そして……。
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