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私はそっと起き上がり、机の一番上の引き出しに大事にしまってあったものを手のひらに乗せた。
木更先輩からもらった、第二ボタンだ。
脳裏に浮かぶあの日の木更先輩は、魔王と違ってサラサラした黒髪をまだ冷たい春の風に揺らしていた。
「君……あの時のドジな子だよね」
二年前の三月。卒業式の日。
「は、はい! 私のこと、覚えていてくれたんですか⁉︎」
「うん。何故か印象に残ってて」
まともにしゃべったのはその時が初めてだった。破壊力抜群の笑顔に、私のハートは震えまくりで、正直他に何をしゃべったのか細かくは覚えていない。
ただ、必死に先輩と同じ高校を受けるつもりです! というアピールをしたことだけは覚えている。
すると先輩は嬉しそうに
「そうなんだ。同じ高校に通えたらいいね。待ってるよ」
と王子様のように微笑んでくれた。
私は完全にのぼせ上がって、こんなことをお願いした。
「あのっ……受験のお守りにしたいので、先輩の第二ボタンくださいっ……!」
そこで私は、先輩のシャツ以外のボタンがカフスまで全部なくなっていることに気がついた。順番待ちしている間にきっとみんな取られてしまったに違いない。
ガッカリしたその時、先輩が自分のポケットから何かを取り出した。
「誰にもあげずに取っておこうと思って外しておいたんだけど……お守りにしてくれるなら君にあげようかな」
「こ、これって……」
「大事にしてくれる?」
先輩が私にくれたのは、キラキラ光る第二ボタンだった。
「い、いいんですかっ?」
「うん。その代わり、受験頑張ってね」
その時、私は決めた。
必ず受験に合格して、先輩のいる高校に入学する。
そして、もしもその夢が叶ったら……先輩に告白するって。
私の成績じゃちょっと難しいって言われていた高校だったけど、このボタンとツーショット写真を見ながら毎日徹夜で頑張った。
いつか先輩の隣に並んで歩く存在になれたらいいなって思いながら……。
それなのに……。
「たっくんの、バカ!」
私は枕を拾い上げてグーパンチした。
私の純情を邪魔する憎き魔王は、絶対に許すまじ!
いつか絶対に倒してやる!
私は木更先輩の第二ボタンにそう誓った。
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