それは痛恨のミスでした。

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 だけど、今から二年前。私が中学二年生になった頃。  お父さんが少し偉くなって、転勤先を自分で選べるようになった。  そこで私は強くお願いして、あの男の子がいた学校の近くに引越ししてもらうことにした。  あの子との思い出は、私の子供時代の中で唯一素敵に輝く宝石のようなものになっていたから。  辛いことが起きるたびに、私はあの子の優しさを思い出して頑張った。一度会っただけのあの子に恋をしていたのだと気づくのに、そう時間はかからなかった。それからは、あの子を思えば思うほど、恋しさが募るようになっていった。  またあの子に会える奇跡を夢見て、もしも会えたら絶対に運命だから、自分から積極的にアプローチしようと決めていた。  そんなある日──運命は突然やってきた。  中学二年の冬のことだ。  次の授業を受ける音楽室に移動するために階段を上っていたら、上から降りてきた四人組の上級生と肩がぶつかった。  その瞬間、運動神経のない私は「あわ、あわ……」とバランスを崩し、バク転しそうな勢いで階段から落ちかけた。  「危ない!」  大怪我を覚悟した私を危機から救ってくれたのは、四人のうちの一人の男子だった。彼は私の背中を片手で支え、倒れないようにしてくれた。  もちろん、心臓はバクバク。九死に一生を拾ったんだし。それに……助けてくれたその男子が、とってもカッコ良かったから。 「大丈夫?」 「は、はい……」 「ごめんね、こっちが広がって歩いてたせいで怖い思いをさせて」  優しい笑顔と柔らかい口調に、私はあの子の面影を彼に重ねた。  すると彼の方も私の顔を見て何かに気づいたように言った。 「君……前にどこかで会ったことない?」  電流が流れたようにビビッと来てしまった。  この女子への優しさ。正義漢な振る舞い。そしてお互いに感じた既視感。  間違いない。  彼こそ、あの時の男の子だ──。  
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