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「おい。どこ見てんだよ」
キレの良いナイフで喉元を突き刺すかのような鋭い声に、私はハッと現実に戻された。
現実逃避もここまでか。
目の前には赤い髪をした怖いヤンキーが、まだ私のことをじっと睨み続けている。
私が本当に告白したかったあの人──木更櫂先輩との回想は一旦ここで終わらせて、帰ってからゆっくり浸ろう。
……無事に帰れたらの話ですけど。
「俺の質問にちゃんと答えろって言ってんだよ」
「し、質問? ええと……何でしたっけ」
「ああ? 聞いてなかったのか?」
しまった。ずっと脳みそを留守にしていたせいでこの人の話を何も聞いていなかった!
「すみません……あまりにも夢のようで……どこかに吹っ飛んじゃってました」
悪夢のようで。とは言えない。
「夢のよう……? そんなに俺のことが……?」
野獣の目が何故かますます凶暴な光を放った。
「揶揄ってんじゃねえだろうな? 罰ゲームで告白とか、最近流行ってるだろ」
「ば、罰ゲームなんかじゃないです! 私は本当に告白したくて……」
木更先輩に。とは言えない。
ああ、ラブレターにちゃんと「木更」先輩と書いておけば良かった。
名前を書くのも照れちゃって「先輩」表記だけだったから、この人も勘違いしてるのに気づいてない。
痛恨のミス……涙が出そう。あ、本当に瞳がウルウルしてきた。
「ごめんなさい、迷惑でしたよね。あの手紙のことはもう忘れてくださ……」
「いや」
泣きながらこのまま逃げ切ろうとした私の言葉を遮り、赤い髪が呟いた。
「面と向かって返事を聞こうとしたお前の勇気は褒められるべきだ。迷惑に思う奴がいたら俺がそいつを殴る」
「えっ?」
私は初めてまともに佐治先輩の顔を見た。
今まで怖くて直視できなかったけど……この人、めちゃくちゃ……
顔赤いな!
もしかして、照れてません⁉︎
「何見てんだよ。あんまジロジロ見んじゃねえ。心臓潰すぞ」
俺の。
って顔してますよね。
もしかしてこの人、さっきからずっと私の告白にドキドキしていたのでは……?
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