それは痛恨のミスでした。

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 妙な雰囲気の風に包まれたまま、私たちは微妙に視線を交わしたり逸らしたりした。 「お前、名前は?」 「お……乙原(おとはら)夢乃(ゆめの)です」 「夢乃、か」  可愛い名前だな、とボソッと呟く声が聞こえた。  もしかしてこの人、もう結構私にやられてませんか?  怖くて聞けないけども。  嫌な予感がした、その時だ。   「お前の気持ちはよく分かった。しょうがねえから付き合ってやる」 「……えっ?」    照れくさそうにボソッと佐治先輩が言った。 「今日からお前は俺の女だ。分かったな」    私はポカンと口を開けた。  はい? 今日から私は……何ですと? 「えっ……ええええええーーーーっ⁉︎」  彼の言葉を反芻し理解した私は、思わず白目を剥きそうになった。  告白、成功した! いや、大失敗じゃないのかこれ。    そんな私にすかさず野獣の目が光る。 「なんか文句でもあんのか?」 「い、いえ……何でもありません……嬉しすぎて、信じられないといいますか……」    ガタガタ震えながら、私は心と裏腹なことを言った。  正直に言ったら殺されてしまう。  この若さで死ぬのはさすがに嫌だ。でも。 「ああ……嬉しくて、涙が……」  驚きと、絶望と、悲しみと……遠ざかる思い出の影。  木更先輩のあの笑顔に、こんな形でさよならしなきゃいけないなんて。  私のドジ。  バカ。アホ。おたんこなす。 「うっ……うっ……」  堪えきれず、私の頬を熱い涙が伝っていった。
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