それは痛恨のミスでした。

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「な、泣くんじゃねえよ! こんなことで──」 「は、はい……ごめんなさい」  佐治先輩が赤くなって睨む。  私だって泣きたくないけど……。  やだ、どうしよう。涙が止まらない。  我慢すればするほど胸が苦しい。    すると──未使用のポケットティッシュが、回線の混んでるインターネットみたいな速度でプルプルしながら私のエリア内に侵入してきた。  ティッシュの差出人は真っ赤な顔を横に向けながら、精一杯の威厳を保とうとするかのように片手をズボンに突っ込んでいた。 「俺は女の涙が苦手だ。泣くな」 「あ……はい……」  私はティッシュを受け取り、そっとミシン目の点線を破ってティッシュを引き出した。  この人がこんなものを持ち歩いているなんて意外。  それに……意外と優しい。  毎日喧嘩に明け暮れている乱暴者だとばかり思っていたのに。 「そのティッシュは返さなくていい」  それは素直に嬉しかった。 「ありがとうございます」  ティッシュのおかげで涙は綺麗に拭き取れた。  この人、案外いい人かも……。
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