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「晩ご飯のおつかい?」
「あ、はい……」
マイバッグから飛び出たネギが庶民丸出しで恥ずかしいから、私はそっとバッグを背中に回した。
気まずい。早く帰りたい。
でも先輩は私をすぐに帰らせるつもりはなさそうだった。
「あれから佐治くんと会うことはできたの?」
心配そうに、先輩が私の顔を覗き込む。
優しそうな顔をしているけど、この人がたっくんをあんなに追いつめたんだということを私は忘れていない!
「会えました。でもたっくんはすごく傷ついてました」
責めるように見つめ返すと、先輩の顔から笑みが消えた。
「たっくんは本当に繊細で優しい、私の大切な彼氏なんです! これ以上たっくんをいじめるようなことを言うのはやめてください! 本当に怒りますよっ!」
「君は本当に変わった子だな。僕にここまで反抗的な態度を取るなんて……君が初めてだよ、夢乃ちゃん」
先輩は興味深そうな眼差しで私の顔をじっくりと見つめた。
以前は眩しくて直視できないほど整った顔だと思っていたけど、今はもうどんなに見つめられても気合いで跳ね返せる自信がある。
たっくんのためなら喧嘩上等! 胸の中に作り上げたたっくん応援うちわで徹底抗戦の構えを見せてやる覚悟で睨み返す。
すると先輩はクスッと笑って言った。
「正直なことを言っていい?」
「はい?」
「悪いけど……君のことはそれほど覚えていなかったし、周りにたくさんいる女の子の一人ぐらいの認識しかなかった。悪い男から救い出したら感謝してもらえて、ますます僕のことを好きになってくれるかなと思って、ただモテたくていい人のフリをしていただけに過ぎない。こう見えて僕はかなり打算的な人間だからね」
「打算……?」
意外な言葉を聞いて、私はちょっと驚いた。
いい人すぎる、正義の人だと思っていたのに……実はモテたかっただけだったなんて。
「何で、今そんなことを告白したんですか? そんなことを聞いたら私、もっと先輩のこと軽蔑しちゃうのに……」
賢い先輩らしからぬミスだと思う。
「そうだね。黙っていれば良かったのに……何でだろう」
先輩は理由を探すように遠くの星を見上げた。
「きっと、君が不器用で正直すぎるから、僕もそうでありたくなったのかも。素直で正直にならなくちゃ、君を佐治くんから横取りできそうにないから──」
星をその瞳に吸い取った先輩が、ゆっくり私の方を見た。
「実は僕も恋には不器用なんだって言ったら、信じる?」
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