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『僕は木更と同じ中学出身で、最初は気の合う友人関係だった』
静まり返った竜也のリビングに男の声がボソボソと漏れる。
『木更の部活の後輩だったナツキともそれで面識ができて、そのうちによく話すようになった。木更より僕の方が話しやすいって、ナツキは無邪気に恋の相談をしてくるようになって……それで僕は仕方なく二人のキューピッド役をやっていたんだけど……』
「けど?」
『ある時、気づいたんだ。木更が……とんでもない女たらしだってことに』
男は不愉快そうに顔を歪めた。
『あの顔で正義漢ぶってるけど、あいつは悪魔だ。階段を降りてる途中で可愛い女の子を見つけたら、わざと僕を押してその子にぶつけて転ばせようとしたりするんだ。自分が助けて、話すきっかけを作るために。前にも会ったことあった? なんていうナンパの常套句に単純な女の子が引っかかって騙されるのを面白がって、何度も同じことを繰り返してた』
『なんだそいつ。めちゃくちゃムカつくな!』
朔太郎が頬を膨らませた。
『卒業式には何人告白に来るか賭けをしようって言って、予想の人数分のボタンを仲間に集めさせてた。モテない奴から目立たない場所についてるボタンをいくらかで買い取って、予想が当たった奴にだけ木更が全額返すっていう遊び。僕は参加しなかったよ。女の子たちは自分が賭けの対象になってるなんて知らずに、自分だけ特別に第二ボタンをもらったんだと喜んでた。ナツキも……そんなものを後生大事にして、バカだよ。本当は誰のものかも分からない、第二でもないボタンなのに』
『木更の奴、サイテーの胸クソ野郎だな!』
「ああ……」
竜也も内心メラメラと怒りが込み上げてくるのを感じていた。
生徒会室で木更が言っていた言葉を完全に思い出したからだ。
──二年前の僕の卒業式の日に、夢乃ちゃんにあげたものがある。今でも大事に取ってあるか、本人に確かめてみたら?
夢乃にあげたものとは、間違いなくその第二ボタンのことだったのだろう。
木更は夢乃が彼に好意を持っていた証を示して、夢乃と竜也の仲に亀裂を生もうとしていたのに違いない。
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