205人が本棚に入れています
本棚に追加
『木更が卒業して一年経てば、ナツキの恋心も薄れるだろうと思ってたんだけど、僕の考えは甘かった。ナツキは僕たちの高校に入学してきて、また木更を追いかけ始めたんだ。木更の方はますます図に乗っていて、生徒会長にのし上がってキャーキャー言われ放題だった。今も複数の女の子と同時に付き合ってる。誰が本命なのか分からないような、遊びの感覚で。多分あいつは本気で誰かを好きになったことなんて一度もないんじゃないのかな。だから人を傷つけても平気なんだ』
男は悔しそうに瞳を閉じた。
『ナツキもだんだん少しずつあいつの本性が分かりかけていたはずだけど、信じたくなかったみたいだった。このままじゃいつかナツキが弄ばれてしまうと思った僕は……いっそ悪者になってでもと思って全力で引き止めようとした。でも……結局僕のせいでナツキは傷ついて、不登校になって──』
『それで、罪滅ぼしにストーカーかよ。お前みてえなのが家の前をウロついてるからその子は怖がって学校いけねえんだろ、バカ!』
朔太郎の怒号に男はビクッと震えた。
『分かってる。でもどうしても気になるんだ』
『うっせえ! てめえの気持ちなんてどうでもいいんだよ! 竜也さんに罪をなすりつけておいてよくもぬけぬけと!』
『僕は罪をなすりつけてなんかいない! 知らないうちに、いつの間にかそういうことになってたんだ!』
『嘘つくんじゃねえよ、てめえ以外にそんな噂流せる奴いねえだろ!』
朔太郎が再び男を締め上げる。その時だった。
『やめてください……!』
震える女の声がした。スマホの画面が激しく揺れて、街灯を映した。誰かが朔太郎と男の間に割り込み、弾みでスマホが地面に落ちたようだ。
『ナツキ……』
男がその人物の名前を口にした。
最初のコメントを投稿しよう!