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三人がいた場所はよく分からないが、恐らく彼女の家の近くだったのだろう。彼女は家の前で男が朔太郎に捕まったのを目撃し、外に出てきてどこかに隠れながら話を聞いていたのかもしれない。
『ごめんなさい、木更先輩に不登校の理由を追求されて……私が嘘をついたんです。そうしないとその人が──神田先輩が責められて、退学にさせられるかもしれないと思ったから……』
女は泣き声を漏らした。朔太郎が締め上げていた男は神田という名前だったのか。今頃竜也はそんなことを思う。
『木更先輩に言っただけなのに、噂が思ったより広まっていて……みんなの目が怖くなって学校に行けなくなったんです。神田先輩のせいじゃないです。私が自分でついた嘘のせい。神田先輩、ずっとそばで見守っていてくれたのに……勇気が出せなくて、ごめんなさい』
暗闇の中でナツキの泣き声だけが少し大きくなった。
『……なんか、一件落着みてえな感じっすね』
朔太郎が呆れた声を出しながらスマホを拾った。画面の外で二人が和解の言葉を交わしている。
『こういうの、なんて言うんでしたっけ。雨降って地蔵がたまる、でしたっけ』
「地蔵をためてどうするんだよ。勉強しろ、バカ」
『すんません。こいつらの処分、どうします? 俺がグーパンしときましょうか?』
「もういいって最初からそう言ってんだろ。ほっとけ」
『竜也さん……器がデカイっす。さすがっす。惚れ直しました!』
面倒臭いだけだと竜也は思った。余計なことに時間を取られて腹が減った。
電話を受けてからどれくらい経ったのか分からないが、夢乃はまだ帰ってこない。あまりにも遅すぎて竜也は再び心配になった。
『こいつらより、俺は木更ってやつを殴りてえっす。あいつは女の敵っすよ。生かしちゃおけねえっす! ね、竜也さん!』
「どうでもいい。切るぞ」
『木更の野郎、今頃どこで何してるんすかね』
「だから」
どうでもいいんだよ、と怒鳴ろうとした時だ。
『木更の居場所なら……分かるよ』
画面外から神田の声がした。
『何でだよ』
『あいつのスマホのGPSを追跡できるアプリを持ってるんだ。ナツキを説得するために、あいつがどこで何をしているか証拠として見せようと思って……体育の授業中にあいつのスマホをちょっといじって僕のスマホとバインドさせたんだ』
『お前、マジでストーカーの才能あるな!』
朔太郎が嬉しそうに神田を褒めた。
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