それは痛恨のミスでした。

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それは痛恨のミスでした。

 冷たい風の吹き荒ぶ屋上で、私はただただ震えていた。  寒さだけのせいじゃない。  目の前で風に揺れる赤い髪。その真下に潜む獣のような鋭い目つきが私を捉えていたからだ。  こんな状況、夢であって欲しかった。 「お前か。俺にあんな手紙をよこしたのは」 「い、いえ……あの……」 「声が小せえ。もっと気合いを入れて話せ!」 「は、はいっ!」  うっかり「はい」って言っちゃったけど、私はこの人に手紙を出したりしていない。  うちの高校で最強のヤンキーと噂されるこの人──佐治(さじ)竜也(たつや)と一対一で向き合うなんて、夢であっても怖すぎるでしょ。  彼の髪が赤い理由を知ってますか?  それは、殴った相手の返り血を浴びても目立たないようにするためです。  国語の教科書にそんなことが書いてあったような気がする!  もしもヘビに睨まれたら、カエルは自分の死を覚悟しながらも逃げられず、ゆっくりと飲み込まれるのみ。  生物の教科書にもそう書いてあったような気がする!  とにかく、絶対にこの人と目が合ったらいけないと入学したその日に上級生から教えられた。  怖すぎて、震えるしかない。いや、この恐怖にはもう耐えられそうにない。  どうせ()るならいっそひと思いに()っちゃってください!  ……いや、やっぱ無理無理。  必死でガリ勉してせっかく憧れていた高校に入学して約6ヶ月……今が一番楽しい時期なのに、ここで死ぬとか絶対に嫌。    木更(きさら)先輩にもようやく告白できたと思っていたところだったのに。  そう──私が屋上にやってきたのは、こうして最強伝説のヤンキーと睨み合うためじゃない。  ずっと憧れていた木更(きさら)(かい)先輩に告白の返事をもらえると思って来ただけ……なのに。  
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