1,ポケットフラワー

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1,ポケットフラワー

世の中では、時代とともに様々なものが流行してきたが、そのうちのいくつかは一時の流行から定番へと移行し、それ以外は時の移ろいに押し流されて消えて行った。 けれども消えたものはその時代を象徴するアイコンとして、人々の記憶に刻まれた。 ポケットフラワーも、流行のアイテムとして一躍センセーショナルな注目を浴びた。 それはフラワーという名前を持ちその形状や特徴等も花に近似しているが、花屋では売っていない。 一応玩具に分類され、おもちゃ屋などで売られていた。 見た目は球根にそっくりなのだが、土に植えたり水耕栽培のように水で育てたりするのではなく、ポケットの中に入れて生育するのだった。 ポケットに手を突っ込んでポケットフラワーに触れると、その温もりを通して所有者の愛情や感情が伝わり、それが栄養となる。 個人差はあるが、1週間から1か月ぐらいでポケットフラワーの球根から花が咲く。 芽が出て茎や葉が出るというプロセスを経ないで、いきなり卵から誕生するように花が咲くのだ。 その花も人によって千差万別で、バラのようなもの、チューリップやユリ、朝顔、桜、ツツジなどこの世に存在している花に似ているものもあれば、どの花とも違う新種と言える花もあった。 また、ずっとポケットに入れていても、球根のままいつまでも花を咲かせないものもある。 それは不良品ではなく、持ち主の心の持ち方によるのだという。 咲いた花も、1週間ほどで散るものもあれば1か月以上もつものもある。それも品種あるいは個体差というより、育てる持ち主次第ということだった。 ある人達は、手から出る波動(パワー)の効果だという説を唱えた。ハンドヒーリングなどが実証するように、手から霊的な波動が出ていてそれがポケットフラワーに作用するのだろうと。 しかし、ハンドパワーを信奉する大人でも、球根に花を咲かせることに失敗する者が多数いた。 割合にすると、成功するのは大人が2~30%で、18歳以下の子供だと80%という高い数字が出た。 ポケットフラワーは対象年齢が5歳からとあり、説明書には「ポケットフラワーは、未来への無垢なまなざしをもったお子様に最適」と書いてある。 つまり、理屈や技術ではなく、むしろ余計な知識が混ざらない子供のイノセントな感情が、雲に遮られない日光のようにまっすぐに球根に降り注ぐということなのだと思われた。
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