職質を拒む男

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「すみません、警察です。少しよろしいですか?」  冷星刑事が話しかける。 「え! はい……」  男女は驚き、警察官二人を見る。 「少し見回りをしていまして……。失礼ですが、お二人のご関係は?」 「わ、私達の関係! あ、いや、まあ、察しの通りです!」  男性は、何故か仕切りに目を泳がせ答える。 「……分からないです」  冷星刑事は冷静に突っ込む。 「付き合ってます」  それに対し、女性は顔色を変えずに答えた。 「そうですか。では身分を証明するものをお願いします」  冷星刑事の指示に二人の男女はすんなり財布の中の保険証を出してきて、その様子に不審な様子はなかった。 「えー、天道(てんどう) (まさし)さんに、吉田(よしだ)美沙子(みさこ)さん。今日はこちらで何していました?」  その問いに、男はビクンと体を震わした。 「え? 散歩してました」  それに対し、女性は冷静に話す。 「こんなに寒いのに?」 「はい、彼から散歩しようと電話をもらいまして。ねえ?」  女性は男性に同意を求めようと声をかける。 「……そ、そんなことは言ってない!」  なんと、男性は彼女の意見を突っぱねた。 「え? ええ?」  女性は唖然とする。何故男性がそんな理由もない嘘を吐くのか? 意味が分からないと言いたげな表情だった。  そんな女性を尻目に、男性はスーツのポケットよりハンカチを取り出し仕切りに汗を拭う。 「すごい汗かいてますね?」 「あ、ああ。今日は暑くてかないませんなー!」 「……真冬ですけど」  今宵は、吐息が白くなるぐらいの気温だった。  一部始終を見ていた猫月刑事はピーンとくる。  この男、やっている! と。 「たいほ……!」   「すみません、所持品検査お願いします」  冷星刑事は猫月刑事に技を決め込み阻止をする。 「……あ、はい」  女性は指示に従い、鞄の物全てを出す。  冷星刑事は手荷物検査をするが、不審な点は見つからなかった。 「では次は男性の方」 「ああ、私は鞄は持ち歩かないのでありません」 「そうですか。ではこのポケットの中を改めさせてもらったら終わりとさせてもらいます」  その言葉に女性は安堵の表情を浮かべるが、それと反比例するかのように男性の顔は青ざめていく。 「……は? いや、ポケットの中はコートの中を見ましたよね? このポケットには何もありませんよ!」  男性の声は明らかに裏返っており、嘘を吐いているのは女性にも分かった。 「それなら見せてください。何もないならすぐ終わりますよ」  そう言い、冷星刑事は男性に近付く。 「……拒否します!」 「は?」  そこにいる全員が呟く。 「私は、所持品検査を拒否します!」  そう言い、男はポケットに手を突っ込む。
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