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「な、何言ってるのー! ポケットの中身を出すだけよー!」
女性は男に詰め寄る。
それはそのはず、後ろめたいことがない人間には何でもない検査。女性の動揺はもっともだった。
「いやいや、ほら、だって。な、な、何の権限があって、い、い、言っているのか分からないし!」
男は、警察官にまさかの発言をする。
どうやらこの男も、癖が強いようだ。
「いやいや、何の権限って! 相手警察官だからー!」
女性はそう言うが挙動不審男は聞き入れない。その額からはまた汗が流れていた。
「何が入っていますか? 中身だけでも教えてください」
冷星刑事が男への尋問を始める。
「四角の白い物です!」
「四角の白い物ー! 逮捕だー!」
猫月刑事が豪快に叫ぶ。
「そうですね、これは間違いない! 応援呼びます!」
なんと冷星刑事まで男を疑いだした!
── やはり垂れ込みは本物だった。男が密売人で、女性はフェイク。闇取引は本当に行われていた。
二人の刑事の頭の中には、四角い手のひらサイズぐらいの袋に入った白い粉。つまり違法薬物が入った袋が男のポケットに入っていると思い、絶対に逃さないと躍起になっている。
「検査? これをですか?」
挙動不審男がポケットの何かを握り締めながら猫月刑事に問う。
「ああ! さっさと出せー!」
「さ、査定しようとしているのですかー! なんて失敬な! 発明には金がかかるから、これしか用意出来なかったんだー!」
挙動不審男は意味が分からない発言をし出した。
「は、発明?」
冷星刑事は思わず呟く。
「……あ。この人、こう見えて発明家なんです。ヘンテコな発明品ばかりですが、腕だけは確かで……」
女性はフォローにならないフォローをする。
「ああ! 最近は七味の七種類を全て分別する機械を一般家庭に普及させようと発明している! これさえあれば、料理によって割合をセルフで変えられて、より楽しい食事をだな……」
挙動不審男の怒りはどこに行ったのか熱弁を始める。しかし真面目に聞いているのは女性だけだった。
「……実につまらない発明!」
冷星刑事は思わず突っ込む。
「……ちょっと待て! つまりブツの調合も可能ってことか!」
「ブツ? ああ、ブツブツな粉でも対応している! 品質は保証するぞ!」
「つまり純正度が高いということか……。こいつは末端ではなく内情を知っている! おい! それの入手先はどこだ!」
「デパートだ!」
「デパート裏での闇取引か!」
「闇取引? いやいや、正当な取引だ!」
「バイヤーは誰だ?」
「誰? えー、確か対応してくれたのは斉藤さんという若い女性だったな?」
「女ー! お前、若い女性をまだ誑かせているのかー!」
「誑かす? いやいやいや! ちゃんと金は払ってきた!」
「いくら払った……?」
「給料三カ月分だ! いやー、清水の舞台から飛び降りるとはこうゆうことを言うのだと知ったな!」
「飛び降りるー! 早まるなー! まだ『更生』の余地はある! お袋さんが泣くぞー!」
「『構成』の余地か……。やはり浜辺では安易だったか? 母さんも一生の思い出だと言っていたしな……」
「「……どう伝えたら良いんだ?」」
熱血刑事と挙動不審男は同じ言葉を呟き、互いに頭を抱えて悩み始めてしまう。
別の話をしているのに、何故か話が噛み合ってしまい二人で途方に暮れる。それは異様な光景だった。
終止符を打ったのは冷星刑事だった。
「猫月刑事。逮捕することで更生させましょう……。十一時三九分です」
「ああ……。そうだな。……公務執行妨害の現行犯でお前を逮捕する!」
猫月刑事は挙動不審男は手錠をはめる。
「はあああああー!?」
挙動不審男と女性は唖然とする。
「さあ逮捕の為、強制執行だ! ポケットの物を出せ!」
「はっ!」
冷星刑事は男のスーツのポケットを探る。
「やめろー!」
男はジタバタと暴れる。
「お前はまだ若い! まだ更生出来る!」
「いやいやいや! あんたらサプライズと言う言葉知らんのかー! こっからどうやって構成できるんだー!」
「一緒に考えるぞ!」
「いや、こっからの挽回無理だろ!」
男の抵抗虚しく、強制捜査となった。
「……あれ?」
冷星刑事は男のポケットの中を一つずつ改めていくが、見つかったのはただ一つ。男が言った通り、四角の白い物。いや、四角の白い箱だった。
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