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「この箱の中身は何だと思いますか?」
おそらく十人が聞かれたら、九人以上は「指輪」と答えるだろう。
男が人気がない浜辺を散歩しようと交際相手を誘い、その上空はキラキラ輝く星々、男の慌て具合と異様な汗、ポケットの中を死守する様子、白い箱の中身。
……つまり、そうゆうことだ。
刑事二人は顔を見合わせ、今度は二人から汗がダラダラと流れてくる。
「すまんかったー!」
浜辺に刑事二人の声が響く。
「あああー! どうしよう! 一生に一度の機会を邪魔してしまったー!」
「あああー! プロポーズぐらいしっかりしたかったのに失敗してしまったー!」
元・挙動不審男と両刑事が頭を抱え阿鼻叫喚と叫ぶ。
その絶叫を止めたのは女性だった。
「プロポーズお受けします」
そう言い、刑事から指輪を受け取ったのだ。
「えええええー!!!」
男三人で絶叫する。
「美沙子、よく考えろ! 結婚だぞ! 結婚! こんな男に一生を預けていいのか!」
プロポーズしている男が考え直しを促す、意味が分からない構図が出来た。
「だってあなた。何度も呼び出しているくせに、なかなかプロポーズしてくれないんだもの。こっちから言おうとしても聞いてないし! ……まさか指輪を用意してくれているなんて思わなかった。だから堅苦しい言葉なんかいらないから、さっさと結婚しちゃいましょう!」
女性は驚くほどサッパリとした性格だった。
元・挙動不審男は箱から指輪を取り出し、女性の指にはめる。……手錠をつけたまま……。
「……はぁ、とうとう見立て違いをしてしまった……。私は警察の仕事を辞することにする……」
「猫月刑事! そんな……。それなら自分もです!」
「冷星……、それじゃあ最後の仕事をするか」
「はい」
そう言い、両刑事は二人に頭を下げる。
「申し訳ありませんでした!」
「へ?」
「誤認逮捕をしてしまいました。これはしてはいけない失態です。それなので一緒に警察署に来てください。正式に謝罪を……」
二人は顔を見合わせて笑う。
「良いんですよ、この人が職質を拒むのが悪いのですから!」
「はい! おかけで結婚出来ることが出来ました! ありがとうございます!」
なんと二人は許してくれた。
ピー、ピー、ピー。
そこにポケベルの音が鳴り響く。平成初期はスマホも携帯もなく、外での連絡手段はポケットベルという連絡手段だった。
「猫月刑事! A班が不審人物を発見! 至急応援を願うとのことです!」
「何ー! あ、いや……」
両刑事は、冤罪をかけた二人の男女を見る。
「私達のことは良いですから、悪い人を捕まえてきて下さい! お願いします!」
「……は! 平和な町を目指して我々も任務にあたります!」
両刑事は敬礼をし、車に乗って赤灯を照らして現場に急行する。
「さあ、悪い奴らは全員逮捕だー!」
「はい! あのカップル……、いや夫婦が安全に暮らせる町にしてやるー!」
両刑事は躍起になり、現場に急行する。
……元・挙動不審男に手錠をかけたままだと気付いたのは一時間後、本物の密輸団を捕まえる時だった。
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