職質を拒む男

4/4
前へ
/4ページ
次へ
「この箱の中身は何だと思いますか?」  おそらく十人が聞かれたら、九人以上は「指輪」と答えるだろう。  男が人気がない浜辺を散歩しようと交際相手を誘い、その上空はキラキラ輝く星々、男の慌て具合と異様な汗、ポケットの中を死守する様子、白い箱の中身。  ……つまり、そうゆうことだ。  刑事二人は顔を見合わせ、今度は二人から汗がダラダラと流れてくる。 「すまんかったー!」  浜辺に刑事二人の声が響く。 「あああー! どうしよう! 一生に一度の機会を邪魔してしまったー!」 「あああー! プロポーズぐらいしっかりしたかったのに失敗してしまったー!」  元・挙動不審男と両刑事が頭を抱え阿鼻叫喚と叫ぶ。  その絶叫を止めたのは女性だった。 「プロポーズお受けします」  そう言い、刑事から指輪を受け取ったのだ。 「えええええー!!!」  男三人で絶叫する。 「美沙子、よく考えろ! 結婚だぞ! 結婚! こんな男に一生を預けていいのか!」  プロポーズしている男が考え直しを促す、意味が分からない構図が出来た。 「だってあなた。何度も呼び出しているくせに、なかなかプロポーズしてくれないんだもの。こっちから言おうとしても聞いてないし! ……まさか指輪を用意してくれているなんて思わなかった。だから堅苦しい言葉なんかいらないから、さっさと結婚しちゃいましょう!」  女性は驚くほどサッパリとした性格だった。  元・挙動不審男は箱から指輪を取り出し、女性の指にはめる。……手錠をつけたまま……。 「……はぁ、とうとう見立て違いをしてしまった……。私は警察の仕事を辞することにする……」 「猫月刑事! そんな……。それなら自分もです!」 「冷星……、それじゃあ最後の仕事をするか」 「はい」  そう言い、両刑事は二人に頭を下げる。 「申し訳ありませんでした!」 「へ?」   「誤認逮捕をしてしまいました。これはしてはいけない失態です。それなので一緒に警察署に来てください。正式に謝罪を……」  二人は顔を見合わせて笑う。 「良いんですよ、この人が職質を拒むのが悪いのですから!」 「はい! おかけで結婚出来ることが出来ました! ありがとうございます!」  なんと二人は許してくれた。  ピー、ピー、ピー。  そこにポケベルの音が鳴り響く。平成初期はスマホも携帯もなく、外での連絡手段はポケットベルという連絡手段だった。 「猫月刑事! A班が不審人物を発見! 至急応援を願うとのことです!」 「何ー! あ、いや……」  両刑事は、冤罪をかけた二人の男女を見る。 「私達のことは良いですから、悪い人を捕まえてきて下さい! お願いします!」 「……は! 平和な町を目指して我々も任務にあたります!」  両刑事は敬礼をし、車に乗って赤灯を照らして現場に急行する。 「さあ、悪い奴らは全員逮捕だー!」 「はい! あのカップル……、いや夫婦が安全に暮らせる町にしてやるー!」  両刑事は躍起になり、現場に急行する。  ……元・挙動不審男に手錠をかけたままだと気付いたのは一時間後、本物の密輸団を捕まえる時だった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加