二人の義姉たち

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二人の義姉たち

「シンデレラ! アンタ、またそんなドレスなんか着て! せっかく私たちがアンタに相応しい服を用意してやったのに!」 「そうよ! あたしたちの服は着られないっていうの!?」  やって来て早々やかましく騒ぎ始めたのは、きっとシンデレラの義理の姉たちだろう。  ひとりは細身で赤毛。おそらく長女だ。  もうひとりは、ややぽっちゃり体型で、茶色の髪。たぶんこっちが次女。  どちらも瞳が緑色で背は低めだ。  二人そろっていかにも意地悪そうな顔をしており、そんな彼女たちに怒鳴られたシンデレラはすっかり青ざめて震えている。 「あの……でも、このドレスはお父様が下さったものだから……」 「ふん! だからどうだっていうのよ! そもそも、お父様もアンタじゃなく私たちにドレスを買ってくれるべきなのに、どうかしてるわ!」 「そうよそうよ! これはあたしたちが着てあげるから寄越しなさい!」 「で、でも……これは……」  目を吊り上げて怒鳴る姉たちと、悲しそうに目を伏せるシンデレラ。  ひどいイビリの現場を目撃して、はらわたが煮え繰り返りそうだ。 (はぁ!? ドレスを寄越せですって!? なんて図々しいの!)  シンデレラに相応しい服を用意してやった、なんて恩着せがましく言っているけれど、どうせボロ雑巾みたいな服を着せてあざ笑うつもりに違いない。 (可哀想なシンデレラ……。お父様から贈ってもらったドレスをどうしても手放したくないのね)  きっと意地悪な姉たちに毎日のようにイビられる中で、離れて暮らす父親からもらったドレスを心の拠り所にしているのだろう。  そんな大切なものを横取りしようとする不届者にはお仕置きしてやらなくてはならない。  わたしは小さな翼を広げ、部屋の中央で仁王立ちする姉たち向かって勢いよく飛び立つ。そして、彼女たちの頭上で、白い落とし物をしてやった。 「えっ、うそ! 鳥のフン!?」 「きゃああ! 汚い!!」  姉たちは悲鳴をあげて逃げまどい、泣きそうな顔になりながらシンデレラの部屋を出て行った。 (ふん、ざまぁみなさい!)  正義の鉄槌を下してやったうえ、お腹もスッキリして気分がいい。  窓辺に戻って鼻歌を歌いながらステップを刻んでいると、シンデレラがやって来て困ったように微笑んだ。 「もしかして、私を助けようとしてくれたの?」  もちろんそうよ、というつもりで「ピチチチ」とさえずると、シンデレラが綺麗な指の腹でわたしの頭を撫でてくれた。 「ありがとう。でも、お姉様たちは悪い人じゃないから大丈夫だよ」  まさかの意地悪姉を庇う発言に、わたしは衝撃を受けた。  あんな嫌味なことを言われていたのに「悪い人じゃない」だなんて、心が清らかすぎる。 「ピチチチ、ピチ、ピチチチピチッチ!(いやいや、あんな人たちなんか庇わなくていいから!)」  あまりのお人好しっぷりに逆に心配になって必死に訴えるが、さすがのシンデレラでも鳥の言葉は分からないらしく、「もっとパンが欲しいの?」などと言って、ポケットからさらにパンくずを出してきた。 「ピチチチ、ピチピーチチ……(違うの、そうじゃなくて……)」 「私、お姉様たちのドレスを洗いに行ってくるね。あなたは食事を楽しんで」  そう言って、シンデレラは部屋を出て行ってしまった。 (シンデレラを助けようと思ったのに、かえって仕事を増やしちゃったわね……)  初仕事が失敗に終わって、情けないことこの上ない。 (せめてもの罪滅ぼしに、こっそりお掃除の仕上げをしといてあげよう)  部屋の隅で人間の姿に戻り、魔法の杖を一振りすると、一瞬で床も窓もピカピカになり、ベッドの布団は干し立てみたいにフカフカに膨らんだ。 (それじゃあ、今日のところはこれにて失礼します……)  また来週様子を見に来るからねと、心の中で声を掛けつつ、わたしはシンデレラの部屋から飛び立ったのだった。
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