シンデレラの事情

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シンデレラの事情

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、本っ当にごめんなさい……!」  シンデレラが実は男性だったと知ったわたしは、急いで魔法を解除して、元の服装に戻した。 (まさか、肩を出しただけであんなけしからんことになるとは……)  そんなつもりはなかったとはいえ、わたしのやったことは嫌がる男の子に無理やり好みのドレスを着せたド変態行為だ。  平身低頭で謝るしかない。 「リュシー、もうそんなに謝らなくても大丈夫だから」 「でも……」 「元はと言えば、誤解されるような暮らしをしていた私が悪いから……」  たしかに、実際は男性なのに女性の格好をしていたというのは妙だ。どんな理由があったのだろうか。 「どうしてそんな暮らしをしていたのか、聞いてもいい?」 「……うん」 ◇◇◇  シンデレラから話を聞いたわたしは、想像もしなかった話に息を飲んだ。 「──それじゃあ、あなたが女性の格好をしていたのは、お父様の指示だったのね」  なんと、シンデレラの父親は妻の死後に心を壊してしまい、愛する妻と瓜二つだったシンデレラに女装させて妻そっくりの格好にさせていたのだという。  義姉たちはそんなシンデレラを不憫に思い、父親の元から離して面倒を見てくれ、父親の呪縛からなかなか逃れられずに女装し続けるシンデレラに男らしい格好をさせようとあれこれ手を尽くしてくれていたのだという。だから継母がいなかったのか。 (ドレスを着るなと言ったり、いきなり髪を切り落としたのもそういうことだったのね)  どうやら、童話の先入観と義姉たちの人相のせいで誤解をしてしまっていたようだ。 (いや、あれは誰でも誤解するわ)  心の中でひとりツッコミを入れていると、シンデレラが申し訳なさそうに眉を下げた。 「……そういうことだから、私は舞踏会には行かないし、ここで留守番するよ」 「シンデレラ……」  これで本当にいいのだろうか。  父親に人生を歪められたまま、一生「ヒロイン」として生きていかなくてはならないのだろうか。 (ううん、違う。そんなわけない。それに、わたしはシンデレラを絶対幸せにしてあげるって決めたんだから)  わたしは自信なさげにうつむくシンデレラの両頬に手を当てて、ぐいっと持ち上げた。 「シンデレラ、やっぱりあなたも舞踏会に行きましょう」 「えっ、でも私はドレスは……」 「ううん、ドレスではなく男性の服を着て参加するの。シンデレラは男性なんだって、みんなに知ってもらうのよ!」 「私は、男性……」  シンデレラにとっては怖いことかもしれない。  でも、いずれは通らなければならない道だ。  それなら、彼が安心してその道を歩けるよう、わたしがすぐそばで支えてあげればいい。 「大丈夫、わたしも一緒に行ってあげるから。ね?」 「……リュシーがついていてくれるなら」 ◇◇◇  そうしてわたしは、男性の衣装に着替えたシンデレラとともに王城へとやって来た。  ちなみにシンデレラの衣装は、義姉たちが用意してくれていたものだ。かなり質のいいオーダー品で、義姉たちのシンデレラへの愛情が伝わってくる。  シンデレラも服に着られることもなく見事に着こなしている。  ずっと小鳥目線だったし、人間に戻ったときもシンデレラはすぐに倒れてしまったので全然気がつかなかったが、実は普通に高身長だった。義姉たちの身長が低いのだとばかり思っていたが、これも勘違いだった。  今になってみれば、「シンデレラだから」という思い込みもあったとはいえ、彼を女性だと思っていたほうがおかしいような気もしてくる。 (中性的な顔つきだから、余計に惑わされてしまったのかもね。それにしても顔がいい……)  ついその美貌に見惚れていると、シンデレラが照れたように頬を赤くした。 「な、なに、リュシー? やっぱり変?」 「まさか! 素敵すぎて見惚れてただけよ!」 「えっ、ありがとう……」  シンデレラの顔がさらに赤くなる。  本当のことを言っただけなのに可愛いわね、と思っていると、シンデレラが小首を傾げてふわりと笑った。 「リュシーも、とっても綺麗で素敵だよ。お姫様みたい」 「うぇっ……!?」  驚きすぎて変な声が出てしまった。  たしかに美人に生まれ変わった自覚はあるし、魔法のドレスで着飾っているから綺麗ではあるだろうけど、他人から「お姫様みたい」だなんて言われるのは初めてで恥ずかしくて仕方ない。  しかもこんな美形から言われるのは破壊力が強すぎる。そこそこ強メンタルのわたしでなければ即死していてもおかしくない。 「ドゥフッ、あり、ありがと……」  ちょっと動揺が隠しきれなくて不審者みたいな返事をしてしまうと、シンデレラがおかしそうに笑った。 「ふふっ、可愛い」  正直、さっきの返事のどこに可愛さがあったのか謎でしかないが、シンデレラが楽しそうなのでよしとしよう。 「そ、それじゃあ早速ホールに行きましょう!」
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