自ら掘った墓穴、そして超展開へ…(エピローグ)

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自ら掘った墓穴、そして超展開へ…(エピローグ)

 ホールにやって来ると、自分で言うのもなんではあるが、わたしとシンデレラの美貌にみんなが目を奪われ、あちこちから感嘆の溜め息が聞こえてきた。  そしてホールの奥のほうから、聞き慣れた大声が聞こえてくる。 「シンデレラ!? シンデレラなの!?」 「アンタ、やっとその服を着てくれたのね!?」  義姉たちが全速力でこちらへと走ってきて、シンデレラの晴れ姿を褒め称える。 「ほらぁ、だから似合うって言ったじゃない! それなのにアンタって本当に馬鹿なんだから!」 「しかも女連れ? いきなりこんな美女を連れてくるなんて、さすがアタシたちの弟だわ!」 「お姉様……」  嬉しそうに笑う義姉たちはやっぱりどう見ても意地悪そうだが、化粧の仕方の問題なような気もしてきた。今度メイク講座でも開いてあげたほうがいいかもしれない。  そんなことを考えていると、シンデレラと義姉たちのやり取りを見ていた参加者たちが噂をし合う声が聞こえてきた。 「あの素敵な男性はシンデレラ様っておっしゃるみたいよ」 「お姉様たちとあまり似ていないのね。血が繋がっていないのかも」 「隣の綺麗な女性はどなたかしら?」 「あちらが実のお姉様なのでは? だって美人だもの」  なにやら新たな誤解が生まれているようだけど、とりあえず、シンデレラはイケメン男子という認識を広めることができたからミッションコンプリートだ。 (あとは舞踏会を楽しんで、シンデレラに相応しいお嬢さんがいないかも物色して……)  こちらを見ているあちこちの女性たちにすばやく視線を走らせていると、背後からコツン、と足音が聞こえてきた。  振り返ってみれば、凛々しく着飾ったファブリス王子が恍惚とした表情でこちらへと歩み寄ってくる。 「ああ、あのお告げは本当だったのか……」 (やっば! 忘れてた!!)  そういえば昨晩、女神のコスプレをして王子に「舞踏会で運命の出会いがある」というお告げのフリをしていたのだった。  あの時は童話の結末を実現してあげるのが魔法使いとしてのわたしの使命だと思っていたけれど、ヒロインの想定だったシンデレラが実は男だったという事実が判明した今、王子とのハッピーウェディングは無理筋である。 (てか、王子もシンデレラを見たら男だって分かるよね!? なんでこっちに来てるの?? これが物語の強制力ってやつ……!?)  まさかシンデレラの世界でBLが始まるなんて……!?  ──と、ひやひやワクワクしていたら、ファブリス王子はなぜかわたしの手を取って握りしめた。 「昨晩、あなたそっくりの女神が現れ、今夜の舞踏会で運命の出会いがあるとお告げを授かった。あなたがその運命の女性に違いない……!」  王子の発言にホールがざわめく。 「まあ! 運命の出会いですって!」 「なんてロマンチックなの……!」 「美男美女でお似合いだわ〜」  あっという間に王子とわたしの運命の出会いの噂が広まり、ホール中の視線がこちらへと注がれる。 (まずいまずいまずい……これは本当にまずい……!)  わたしがあんなお告げをしてしまったことと、シンデレラが女装をやめたことから、王子はすっかりわたしが運命の相手だと思い込んでいる。 「いや、人違いでは……?」 「そんなはずはない。女神様と同じ顔の女性などそうそういない」 「でも、女神様と同じ顔だからって、わたしが運命の相手だとは限らないのでは……」 「女神様は自分の心を信じろとおっしゃっていた。だから、あなたに間違いない。なぜなら、あなたを見た瞬間、僕は運命を感じたのだから……!」  あああ……何という墓穴……。  わたしが無駄にハイクオリティなお告げをしてしまったせいで……。 「た、助けて……」  思わずぽつりと呟くと、突如ホールに凛とした声が響き渡った。 「おやめください、リュシーが困っているではありませんか!」  なんとシンデレラがわたしを庇ってくれている。 「シンデレラ……!」  優しい子だから、わたしを助けようと思って頑張ってくれたのだろう。相手は王子様だというのに、優しいだけじゃなく勇気もあって、さすが主人公だ。  しかし、王子様はわたしの手を離してくれない。 「そうか、あなたはリュシーというのか。名前まで素敵な方だ。どうか僕の妃になってほしい」  それどころかいきなりプロポーズまでし始め、舞踏会参加者たちのテンションもどんどん上がっていく。 「まあ! 王子様のプロポーズよ!」 「なんて返事するのかしら!?」 「それはOK一択でしょう!」  いやこれ、断ったらどうなるの……?  王子様に恥をかかせても許される……?  ホールの異様な熱気のせいで、どうすればいいのか分からなくなってくる。  なんかもう色々混乱を招いた責任もあるし、ここはわたしが折れて収拾をつけるしかないのかも……?  まあ、王子だから地位もあるし顔も美形だし、悪い選択ではないよね……?  前世でも交際0日婚の夫婦とかいたし、案外普通のことなのでは……?  そんな冷静なような混乱したような頭で了承の返事をしかけたとき、突然横から誰かの腕が伸びてきて、グイッと肩を抱かれた。 「だ、だめですっ! リュシーは私のものです……!!」  再びシンデレラの声が響き渡り、次の瞬間、ホールが熱狂の渦に陥る。 「きゃあああ! 三角関係よ!!」 「シンデレラ様とリュシー様は姉弟ではなかったのね!」 「王子様とシンデレラ様、どちらが選ばれるのかしら!?」  ホール中の婦女子たちがわたしたちに熱視線を送り、鼻息を荒くしている。  さらに王子とシンデレラもわたしを手放すまいとがっちりホールドした手を緩めない。 「リュシー、僕を選んでほしい」 「リュシー、私とずっと一緒にいよう?」  あわわわわ……これは一体どうすれば……?  もう思考回路はショートどころか爆散寸前だ。 (ええい! もうどうにでもなれ……!)  わたしは魔法で突風を巻き起こして王子とシンデレラのホールドを引き剥がすと、ホールから一目散に逃げ出した。  後ろから「リュシー!」というシンデレラの声や「追いかけろ!」という王子の声、「うちの弟を泣かすんじゃない!」という義姉たちの声が聞こえてくるけど、とりあえず今は逃げるしかない。 「ああもう、ハイヒールじゃ走れないわ!」  せっかく作ったガラスの靴も全力疾走の邪魔なので階段にポイだ。 「リュシー! 行かないで!」 「ごめんねシンデレラ! またあとで会いに行くから!」  門の前で小鳥に変身して飛び立つと、ちょうど深夜12時の鐘が鳴り始めた。 (ひええ……わたしは魔法使いの役割を果たそうとしただけなのに、どうしてこんなことになってしまったの……!?)  心の中で嘆いても、誰も答えてはくれない。  ……もはやトンデモ展開になっているこの物語が一体どうなってしまうのか、結末が分かるのはまだまだ先になりそうだ──。
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