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忘れ雪の約束
「今年も去年みたいに雪積もるかなぁ」
何の気無しにした僕の発言に、聞いていた周りの皆はギョッという顔をした。
あれ? 僕何か変なこと言った?
首をかしげると、クラス一の元気印のカズヤが答えた。
「何言ってんだフウタ。去年は雪なんて降らなかっただろ」
今度は僕がギョッとする番だった。
そんなはずない。僕の記憶では去年、積もった雪で遊んだんだ。今この教室のすみっこに集まっているいつものメンバーで。
「冗談だよね? 確かに去年、一緒に雪遊びしたよ。ね? ノリツグ」
「いや、記憶にないかも」
しっかり者のノリツグまで。
「クミ、ヨウスケ」僕は残った二人にすがるように尋ねる。
「皆で雪合戦したじゃん。同じ人数に分かれて、負けた方が罰ゲームだーって」
「そうだったっけ?」
「覚えてないや。ごめんな」
優しいクミと正直者のヨウスケまで、眉をへの字にしながらそんなことを言う。僕は驚いて、悲しくて、開いた方がふさがらなかった。
皆ひどいよ。あんなに楽しかったのに忘れちゃったなんて……
カズヤ、ノリツグ、クミ、ヨウスケ。それから僕。五人はいつも一緒にいて、クラスで一番の仲良しだと思っていた。
だけど、そう思っていたのは僕だけだったのかな。
「でもさ、」とノリツグが真面目な顔で言う。
「それっておかしくない? さっきフウタは『同じ人数に分かれて』って言ったけど、五人でどうやって同じ人数に分かれるの?」
あっ、と僕は声を上げた。
確かにノリツグの言う通りだ。五人が二チームに分かれるのに、同じ人数なんて変だ。あの時は四人だった? いや、僕らは仲良し五人組なのに、誰かがのけものなんて考えられない。
……そうだ。
頭の中で何かがピコーンと光った。思い出した。あの雪合戦の時、僕たちは三対三に分かれたんだ。
「男子二人、女子一人で一チームな!」というカズヤの言葉がよみがえる。そうだ、もう一人女子がいたんだ!
僕は急いで皆にそのことを説明をした。
するとだんだん思い出してくる。なんだかちょっとだけ大人っぽくて、とってもか、可愛くて、イタズラ好きな女の子。そんな子と一緒に六人で遊んだんだ。
顔も声もまだ思い出せないけど、絶対、いた。
そして雪合戦の途中、その子と……
「誰だそれ? そんなかわいい子このクラスにいたっけ?」
「ちょっと! それは失礼よ、カズヤくん!」
皆がわははと笑う中、僕は一人でうーんと頭を抱えた。
忘れるなんて皆ひどい! ……なんて、ひどいのはたぶん僕だけだ。
その子を一番忘れちゃいけなかったのは僕。なんとなくだけどそんな気がした。
『フウタくん、きっとまた……』
雪みたいにフワッとした誰かの声が遠くで響いた。
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