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「颯太、入っていいか?」
お夕飯の後しばらくしたら、部屋のドアをノックする音とお父さんの声が聞こえた。
少しむすっとした気分でドアを開けると、お父さんは頭をぽりぽりとかきながら言った。
「まあまあ、颯太。母さんの前ではああ言うしかなかったんだ。颯太は去年、お友達と雪合戦をしたんだろ?」
「……信じてくれるの?」
「もちろんだとも」
僕はパァッとなってお父さんを部屋に招き入れた。そしたらお父さんはいろいろなお話をしてくれた。
まず、お母さんの言っていた「不溶山」について。
村の端っこにあるその小さな山は、一年中雪が溶けずに残っている不思議な山なんだって。
「雪が降っていない去年に雪合戦をしていたとしたら、不溶山しかない。だから母さんもああ言ったんだ」
「そうだったんだ」
「それと、これは母さんも知らないことなんだけどな、」
「うん」
「不溶山から下りてきた人は皆、山での記憶を失ってしまうらしいんだ」
僕が「ええー!」と大きな声を出すとお父さんは「しー!」ってした。僕は慌てて両手で口を押さえる。
お父さんが言うには、これは村でも一部の人しか知らない秘密の話なんだそう。
なんでもジョウキョウショウコ?から記憶を失くした人は山に入ったんだろうという推測しかできないから、真相が完全に分かるまでは下手なことは言うなって村長さんが口止めしてるんだって。
ただ、皆がむやみに山に入らないよう「不溶山は危ない」って情報だけは流してるらしい。
「お父さんはなんでそんな秘密を知ってたの?」
「父さんは昔からこの村に住んでいて、村長とも仲良しだからな」
「お母さんは違うの?」
「母さんはよそから嫁いできたから」
「トツ……?」
「お嫁にきたってこと」
「ああ、なるほど」
僕はいつのまにかニコニコになっていた。山から下りると記憶が無くなっちゃうっていうなら、皆が覚えていなかったことも説明がつく。
やっぱり、僕は去年不溶山に行って皆と雪合戦をしていたんだ。あの楽しかった思い出はウソじゃなかった。
だけどそうだとしても、まだ不思議なことはある。
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