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僕は走っていた。あんなに行くなと言われた不溶山の中を、あの子を探してがむしゃらにかけ回る。
ゆうべ見たのはただの夢かもしれない。
だけどもしあの夢が僕の記憶の一部で、あれが例の女の子だったとしたら。彼女は、僕が来るのを待っている。
たぶん山に住んでいる子なんだ。
もし誰かが山を登ってあの子と会い、もう一度来ると約束したとしても、下山したらその約束ごと彼女の記憶を失くしてしまう。
彼女はいろんな人と再会の約束をしては、誰も来てくれず寂しい思いをしてきたんだろう。
あの時彼女が言った大事なことは「再会の約束」だった。
ようやく思い出した。だから僕だけでも会いに行くんだ。もう一度。
お父さんが言っていたとおり、山には雪がところどころ積もっていた。今年は雪なんてまだ降っていないのに。
僕は雪の白色が多い方に向けてひたすら走って、走って、走りまくった。
しばらくすると急にひらけた場所に出た。
真っ白を通り越して青いほどの雪が膝丈近くまで積もっていて、木にさえぎられていない太陽の光が直に当たり、反射してキラキラと輝いている。
まぶしくて目をつぶりかけたけど、それを見つけた瞬間、逆に見開いた。
雪だるまだ。
小さいけど、石を埋めて作った目鼻や小枝の腕が可愛らしい。僕とあの子で作った雪だるま。
春も夏も秋も通り過ぎたのに、今だってこんなにも太陽に照らされているのに、一年前の冬のまま、少しも溶けることなく僕を待っていた。
あぁ。全部思い出した。あの日、いつもの五人でうちのマルヲの散歩をしてたら、マルヲが急に走り出してしまったんだ。
夢中で追いかけるうちに辿り着いた山。ノリツグやクミは「この山はダメだよ」って言ったけど、雪にマルヲの足跡が残っていたから、僕がわがまま言って進んだんだ。
マルヲをようやく見つけた時、僕らは山の奥の奥の方まで来てしまっていた。
そしてそこで。
「本当にまた来てくれたんだ。フウタくん」
「ユキ!」
僕は思い出したその名を呼んだ。ユキは栗色の瞳をゆらゆらと揺らして、にっこりと微笑んだ。
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