忘れ雪の約束

1/10
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

忘れ雪の約束

「今年も去年みたいに雪積もるかなぁ」  何の気無しにした僕の発言に、聞いていた周りの皆はギョッという顔をした。  あれ? 僕何か変なこと言った?  首をかしげると、クラス一の元気印のカズヤが答えた。 「何言ってんだフウタ。去年は雪なんて降らなかっただろ」  今度は僕がギョッとする番だった。  そんなはずない。僕の記憶では去年、積もった雪で遊んだんだ。今この教室のすみっこに集まっているいつものメンバーで。 「冗談だよね? 確かに去年、一緒に雪遊びしたよ。ね? ノリツグ」 「いや、記憶にないかも」  しっかり者のノリツグまで。 「クミ、ヨウスケ」僕は残った二人にすがるように尋ねる。 「皆で雪合戦したじゃん。同じ人数に分かれて、負けた方が罰ゲームだーって」 「そうだったっけ?」 「覚えてないや。ごめんな」  優しいクミと正直者のヨウスケまで、眉をへの字にしながらそんなことを言う。僕は驚いて、悲しくて、開いた方がふさがらなかった。  皆ひどいよ。あんなに楽しかったのに忘れちゃったなんて……  カズヤ、ノリツグ、クミ、ヨウスケ。それから僕。五人はいつも一緒にいて、クラスで一番の仲良しだと思っていた。  だけど、そう思っていたのは僕だけだったのかな。 「でもさ、」とノリツグが真面目な顔で言う。 「それっておかしくない? さっきフウタは『同じ人数に分かれて』って言ったけど、五人でどうやって同じ人数に分かれるの?」  あっ、と僕は声を上げた。  確かにノリツグの言う通りだ。五人が二チームに分かれるのに、同じ人数なんて変だ。あの時は四人だった? いや、僕らは仲良し五人組なのに、誰かがのけものなんて考えられない。  ……そうだ。  頭の中で何かがピコーンと光った。思い出した。あの雪合戦の時、僕たちは三対三に分かれたんだ。 「男子二人、女子一人で一チームな!」というカズヤの言葉がよみがえる。そうだ、もう一人女子がいたんだ!  僕は急いで皆にそのことを説明をした。  するとだんだん思い出してくる。なんだかちょっとだけ大人っぽくて、とってもか、可愛くて、イタズラ好きな女の子。そんな子と一緒に六人で遊んだんだ。  顔も声もまだ思い出せないけど、絶対、いた。  そして雪合戦の途中、その子と…… 「誰だそれ? そんなかわいい子このクラスにいたっけ?」 「ちょっと! それは失礼よ、カズヤくん!」  皆がわははと笑う中、僕は一人でうーんと頭を抱えた。  忘れるなんて皆ひどい! ……なんて、ひどいのはたぶん僕だけだ。  その子を一番忘れちゃいけなかったのは僕。なんとなくだけどそんな気がした。 『フウタくん、きっとまた……』  雪みたいにフワッとした誰かの声が遠くで響いた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!