ポケットの中で繋がるあなたの手

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     友人の智子(ともこ)と二人で喫茶店に入り、店員に案内された席へ。  シートに座ろうとしてコートを脱いだら、今気づいたと言わんばかりの様子で、智子が声をかけてきた。 「今日はいつもの上着じゃないのね、和恵(かずえ)」  学生の頃は毎日のように顔を合わせていた智子だが、お互い社会人になってからは会う機会も減り、年に数回程度。今日は3ヶ月ぶりくらいだろうか。  待ち合わせ場所の駅前広場からここまで、既に5分以上は一緒だったのに……。隣に並んで歩く際には視界に入っても意識せず、今頃ようやく認識というのが、なんとも彼女らしい。  少し微笑ましい気持ちにもなるけれど、問題のコートについて考えた途端、私の表情は曇ってしまう。 「うん、あの赤いコートでしょう? 確かにあれ、私のお気に入りだったんだけど……。ポケットに入れておいた財布を盗まれてね。それで、もう着るのは()めたの」 「財布を盗まれたって? あらあら、和恵ったら……」  智子は揶揄(からか)うような口調で、唇の端には小さな笑みも浮かべている。 「……だから言ったじゃないの。男の人じゃないんだから、そういうのはポケットに(じか)に入れるな、って。財布やスマホは、ちゃんとポシェットに入れて持ち運ばないとね」  まるで見本を示すみたいに、智子は彼女自身のポシェットに手を伸ばした。革製の小さなショルダーバッグで、今は彼女の横に置いてある。  ずっと自分で(かか)えたままならばまだしも、ああやって置いておいたらバッグごと盗まれる可能性も出てくるだろうし、むしろポケットの中よりも危ない気がする。  そんなツッコミを私が口に出すより早く、智子は言葉を続けていた。 「それに、コートが可哀想よ。財布とられたコートだから縁起悪い、みたいな考え方……。コートに罪はないんだから」  智子は誤解している。  これはさすがに否定しておきたいと思って、私は首を大きく横に振りながら、 「そうじゃないの。縁起悪いとかジンクスとかじゃなくて、本当にこのコートのせいだったのよ。信じられないような話だけど……」  と、詳しく語り始めるのだった。    
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