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それから1ヶ月後。
待ち合わせの場所に現れた智子は、私が譲った赤いコートを着込んでいた。
「ありがとう、和恵。おかげさまで、素敵な彼氏が出来たわ」
「えっ、何の話? 『おかげさまで』って、どういうこと?」
智子に男性を紹介した覚えなんて全くないので、軽く困惑する。
そんな私に対して、彼女はニヤニヤ笑いながら、ショルダーバッグからスマホを取り出してみせた。
待ち受け画面に写っているのは、細面の好青年。私の知らない人物であり、ますます意味がわからなくなる。
不思議そうな私の前で、智子はコートのポケットに手を入れて……。
「これが縁で、彼と知り合ったのよ!」
智子の話によると。
駅前の大通りを歩いている時、ふとコートのポケットに手を突っ込んでみたら、中で人肌の感触が。
しかも同時に、反対側から歩いてくる男性が驚いた顔で立ち止まっている。彼のポケットと繋がって、智子は彼の手に触れていたらしい。
私から話を聞いていた智子とは異なり、相手の方では「ポケットが繋がる」なんて事態は全くの想定外だったという。
「『全くの想定外』ってことは、あの泥棒とは別人ってこと……?」
「もちろん! 私がスリなんかと付き合うわけないでしょ」
彼が着ていたのは、古着屋で手に入れたコート。ごくごく普通の上着のつもりで買ったものだったそうだ。
「それに、いつも同じポケットと繋がるとも限らないしね。そう考えれば、和恵のスリのコートとは別物かも……」
智子はそんな解釈も持ち出しておきながら、少し矛盾した話も口に出していた。
「……だけど、愛の力かしら? 付き合い始めてからは、ずっと彼のポケットと繋がっててね。おかげで寒い冬でも、コートのポケットに手を入れたまま彼と手を繋げるの!」
あまりにも智子が幸せそうなので、私は敢えて指摘できなかったが……。
彼女の考え方は、さすがに都合が良すぎるだろう。「ずっと彼のポケットと繋がって」というのであれば「いつも同じポケットと繋がるとも限らない」は間違いであり、やはり智子の恋人のコートは、あの財布泥棒が着ていたものと同一。そう考えるのが順当ではないか。
その場合、新たな疑念も生まれてしまう。
他人のポケットと繋がる上着なんて、泥棒には便利な代物だ。それを古着屋に売っ払ったりするだろうか?
だとしたら、智子の彼氏の正体は……。
(「ポケットの中で繋がるあなたの手」完)
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