四月のバカ

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 小学生の頃、僕は近所にある公団住宅の最上階へ登るのが何よりも好きだった。バカと煙はなんとかっていうけど、あの言葉は本当にその通りで僕はバカなまま思春期を迎え、やがてバカなまま大人になった。  返しきれないほどの大借金をギャンブルで作り、いよいよ首が回らなくなった日に僕はイチかバチかで親を頼り、残り少ないそのスネをかじることにした。  借金の立て替えを頼んでみると年老いた両親は項垂れたまま頭をポリポリと掻きながら、気まずそうに僕に数枚の書類を差し出した。 「え、何これ」 「いやぁ、どうもならんかった。ここまで踏ん張っては来たんだがなぁ」  父はそう言ってすっかり薄くなった白髪混じりの頭を掻き続けていた。蛙の子は蛙。トンビがタカを産めるはずもなく、借金を肩代わりしてもらうつもりだった僕は差し出された「借用書」を前に呆然とするしかなかった。
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