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かつて、この国で忍者たちによる大きな戦いがあった。
生き残った甲賀、伊賀、風魔、雑賀の4つのクランは、それぞれが巨大な力を持つと言われる〈クリプト絵巻〉を持つことで、互いの均衡を保っていた。
時は流れ、現代。
舞台は普通の街〈甲賀シティ〉
人々は忍者の存在を忘れていた。
甲賀忍者の〈咲耶〉は、忍者なのにとにかく目立ちたい!
友達の〈ネム〉、〈シャオラン〉と共に、〈忍ばない毎日〉を過ごしていた。
ある日、風魔のクリプト絵巻が何者かに奪われ、4つのクランによる戦乱が再び勃発。
咲耶、 ネム、シャオラン も戦いに巻き込まれてしまう。
現代をゆるく生きてきた3人は、戦乱の世を生き抜くことができるのかーー。
「突然だが、お前たちには無人島で修行をしてもらう」
どん!!
甲賀忍者の長たる岩爺の鶴の一声で、咲耶、ネム、シャオランらは人気のない島に連れてこられていた。
「岩爺さま、いきなり何で無人島で修行なんて言い出しのですか?」
咲耶たちのコーチ的存在であるコンガが疑問符を浮かべる。彼にとっても今回の件は意外だったようだ。
「ふむ。これから戦いもさらに激しくなるであろう。咲耶たちには何もない自然の環境に身を置くことで一層の強さを身につけてもらいたいのだ」
「なるほど、そんなお考えが。いつも孫の咲耶に甘い岩爺さまにしては珍しいこともあるものですね」
「コンガ、舐めるでない。獅子は我が子を千尋の谷に落とすという。儂には甲賀忍者のリーダーとして若手を厳しく育てる義務があるのだ!」
岩爺は重々しくコンガを一喝した……までは良かったのだが。くるりと咲耶たちの方に向き直ると、いそいそと大きな荷物を渡しだした。
「咲耶よ、栄養満点の美味しいお弁当を用意しておいたから食べなさい。夜は冷えるだろうから暖かい防寒具も忘れるでないぞ」
と至れり尽くせりのありさま。
「やっぱり甘いじゃん」
コンガが呆れたように呟く。一見強面の岩爺だったが、孫に対してはどこまでも甘いお爺ちゃんであった。
「ありがとう、お爺ちゃん。無人島でキャンプなんて、配信映えしそう!」
「いや、キャンプじゃないから。修行だから」
忍者でありながら目立ちたがりの咲耶に対してコンガは突っ込む。
「最近忙しかったから、たまにはゆっくり自然のなかで休ませてもらおうか」
「いや、休暇じゃないから。修行だから」
マイペースなネムに対してもコンガは突っ込む。
「無人島だなんてちょっと怖いです。今回の旅行は病欠でも良いですか」
「いや、修学旅行じゃないから。修行だから」
怖がりのシャオランに対してもコンガは突っ込む。
いつもの光景だ。
「それでは明日の朝には迎えに来る。三人ともしっかりな」
どろん、と。
岩爺とコンガは煙とともに消える。
残された咲耶たちは改めて自分たちのいる無人島を見渡した。
途端にぴゅうーと冷たい風が吹き抜けて、生い茂った木々ががさがさと揺れる音がする。森の奥は薄暗くて何があるか窺い知ることはできそうにない。
「こうしてみると……」
「どことなく不気味な雰囲気かも」
ネムとシャオランがごくりと固唾をのむ。
すると咲耶が二人を元気づけるように笑った。
「大丈夫。何があっても三人なら何とかなる」
「……咲耶」
「……咲耶さん」
「あ、そうだ。早速、配信の準備をしないと!」
「……咲耶?」
「……咲耶さん?」
「あー! ここスマホが繋がらないよ!! これじゃ配信できない!?」
「……………………」
「……………………」
「仕方ない。動画を撮っておいて後で投稿しよう!!」
ネムとシャオランの視線の温度が徐々に下がっていることにも全く気付かず。咲耶は岩爺から貰ったお弁当を掲げた。
「とりあえず、ご飯にしようか。お腹も減ったし」
「そういえば今日は朝から何も食べてないな」
「もうペコペコです」
三人が包みを開けようと気をとられた瞬間のことだった。
美味しそうな匂いにもでもつられたのだろうか。大きな鳥が羽ばたき、お弁当を咥えて空へと逃げていってしまう。
「あ!」
「私たちのお弁当!」
「待て、この泥棒!」
慌てた咲耶たちは手裏剣を投げるが、空飛ぶ相手に届くことなく。食料を奪った犯人は悠々と逃げおおせてしまう。
「……」
「……」
「だ、大丈夫。何があっても三人なら何とかなる」
というよりも、何とかしないと今日はご飯抜きになってしまう。ここは無人島。自分たちで食べ物を確保する以外なく。咲耶の鼓舞も先ほどより若干トーンダウンしてしまうのも仕方ない。
「水筒は無事だから、水の心配はないけれども」
「問題は食べ物だよなあ。動物でも狩るか」
「あるいは食べられる植物があれば良いんですけど」
咲耶たちは動物を撮ろうとするがなかなかうまくいかず。植物も何が食べられるか分からない。
「ネムの忍術で食べ物を出すことはできないの?」
「……まあ、ダメ元でやってみるか」
ネムは絵に描いたものを具現化する忍術を使うことができる。とりあえず筆を動かして餅を描いてみた。恐る恐る口にしてみるとぼそぼそとした食感で不味くてとても食べられたものじゃない。
「リーリー、お腹すいたね」
シャオランは口寄せで呼び寄せたパンダをぎゅっと抱く。するとパンダのリーリーは巨大化して海で魚を取ってきてくれた。
「わあ! 魚だ!」
「いただきます!」
三人は魚を焼いて食べてお腹いっぱいになった。
翌日岩爺たちが迎えにきてくれた。ほっとするのもつかの間。
「あ、しまった。動画撮り忘れていた。もう一回、無人島で生活させて!」
咲耶の絶叫が響き渡る。
クリプトニンジャは今日も忍ばない。
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