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第1話
「やぁやぁ、どうも。いらっしゃいませ」
目を覚ますとそこは知らない部屋で、目の前には見知らぬ男がニコニコと笑っていた。
「ここ、どこだ? 俺は確かバイトの途中で……」
「そう。君は掛け持ちしている四つ目のバイト先で、いつも通り馬車馬のように働いていました。そして、そのまま過労死したんだよ」
「か、過労死……」
まさか、そんなことがあるはずない。
昔から体力だけは自信があったし、それにさっきだって仕事中にちょっとウトウトしてしまっただけで。
「ああ、つまりこれは夢ってことだ」
なんだ、そういうことか。
まさか仕事中に寝てしまうなんて、どうやら想像以上に疲れがたまっていたみたいだ。
「だったら、早く起きないとな。まだまだ片付けないといけない仕事は山ほどあるんだから」
とりあえず、明日の朝一で仕上げないといけない仕事が終わるまでは優雅に寝ている場合ではない。
それにしても変な夢だ。
夢の中のくせにさっきまでの仕事の疲れは残っているし、それになんだかえらくリアルな造りをしている。
「うん、それは当然だよ。だってこれは夢なんかじゃないんだから」
「は?」
「残念ながら、君は眠ったんじゃないんだ。まぁ永眠という意味では、眠ったといっても間違いではないけど」
そう言って男は、何が面白いのかクスッと小さく笑う。
「いや、待ってくれ。……じゃあ俺は、本当に死んだのか?」
「うん。さっきから言っている通り、君は過労死しちゃったんだよ」
「そんな……」
そんなことってあるのかよ。
せっかく借金を返す目途も立って、あと一年くらいで自由になれたっていうのに……。
「まったく、残念だよねぇ。あと少し頑張れば君は普通の生活を取り戻して、僕もこんな罪悪感を覚えなくて済んだのに」
「マジでその通りだよ。あとちょっとだったのに……」
男の言葉にうなずいた後で、何やら違和感があることに気付いた。
こいつ今、罪悪感って言ったか?
「うん、言ったよ。……何を隠そう、あなたを借金漬けにしたのはこの僕なんだ」
「はぁっ!? 何言ってんだよ。俺に借金を押し付けて逃げたのはあのバカだろ」
今や顔も思い出したくない親友の、いや、親友だったバカ。
そいつと久しぶりに会ったのは、大学を卒業してから数年たったころだった。
お互い三十路も近くなって、居酒屋に呼び出された俺はホイホイ誘いに乗ってしまった。
近況を報告し合いながら酒を酌み交わし、そろそろお開きかという時にそいつは改まった態度に変わる。
なんでも、昔からの夢だったレストランを開きたいらしい。
だけどそのためには資金が足りず、俺に借金の連帯保証人になってほしいと頭を下げてきた。
普通であれば断る場面だが、酒も入って気が大きくなっていた俺は「絶対に迷惑をかけないから」って言葉に騙されてサインしてしまった。
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