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「ところで、この街で仕事をしようと思うんだけど、どこへ行けばいいかな?」
「うん? そうだねぇ……。お兄さんは、例えばどんな仕事に就くつもりなんだい?」
それは、考えてなかった……。
いったい、どんな仕事が俺に向いているのだろうか。
「とりあえず、戦ったりとかはできそうにないからそれ以外で」
「それなら商人とかかな。なんだったら、このままウチで働くかい?」
冗談っぽく勧誘されて、俺は微笑みながら首を振る。
「それは魅力的な提案だけど、できれば最初は一人で気楽にやりたいかな」
「そうかい、残念だね。気が変わったらいつでも来ておくれ」
たぶん社交辞令だけど、それでもそう言われて悪い気はしない。
「しかし、一人でやっていくなら商人ギルドで登録しなくちゃね。許可なく商売をすると、衛兵に捕まっちまうからね」
「許可が要るのか。それじゃ、まずは商人ギルドに行くべきか」
「そうだね。それと、宿も探しておいた方がいいよ。いざ夜になって寝る場所がないなんて、笑い話にもならないからね」
確かにそれは大事だ。
野宿なんてしたことないし、治安がいいのか悪いのかさえ分からない街でそんなことをするのは危なすぎる。
「分かった。商人ギルドに行った後で、ちゃんと宿もさがしてみるよ」
「そうすると良いよ。私たちもしばらくはこの街に居るから、何か困ったことがあったらいつでもおいで。できる限り力になるよ」
「ありがとう。何かあったら頼りにしているよ」
どうやら俺は、ノエラさんにずいぶん気に入られたらしい。
もしかしてこれが、魅了(微)の効果なのだろうか。
だとしたら、非常にありがたいスキルだ。
「それじゃ、そろそろ行くよ。色々とお世話になりました」
「いやいや、こっちこそ助かったよ。さっきの勧誘も、気が変わったらいつでもおいで」
頭を下げて歩き出すと、ノエラさんを筆頭にそこに居たみんなが俺に向けて手を振ってくれる。
その暖かい雰囲気に、このままここでお世話になるのもいいかもなんて、ついそう考えてしまう。
「いやいや、それはいくら何でも甘えすぎだろ。それに、できればもう人に使われる仕事はやりたくない」
社畜は前の世界でもうこりごりだ。
俺はこの世界で、自分の力だけで生きていきたいんだ。
甘い考えを頭から振り払い、俺は迷いを捨てるように歩みを速めた。
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