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「では最後に、今後ご商売をされるうえでの注意点などをご説明しますね」
差し出された資料を受け取ると、そこには細かい字で色々と書き込まれていた。
「ギルドの許可のもとで商売をする場合、年間の売り上げの5%をギルドに収めていただくことになります。売り上げはギルドカードに記録されるため、不正はできませんよ」
「へぇ、記録されるなら計算も楽そうだ」
「ふふ、そうですね。次に、ギルドからの買取依頼についてご説明します。特に商売を始めたての方には大事な話ですから、ちゃんと聞いてくださいね」
そう前置きして、女性は説明を続ける。
「ギルドでは定期的に、指定した物品を買い取る依頼を出しています。物品を持ってきていただければ、相場の8割程度で買い取らせていただきます」
「8割? それじゃ、普通に売った方が儲かるんじゃないか?」
「初めての方は、そう感じるかもしれませんね。ですが、商売を始めたばかりの方ではまだ販路が確立されていない場合もありますから。そういった場合でも、ギルドを介せば販売することが可能です」
「なるほど、そういうことか。確かに、誰も買ってくれないよりはマシかもしれないな」
「もちろん、依頼を受けるかは自由ですから。最初から店舗を構えている方なんかは、一度も利用しないこともあります。ちなみにミカミさんは、店舗を構えるご予定は?」
「今のところないな。というより、そんな余裕もない」
なんなら、今後の生活費さえ急いで稼がないといけないくらいだ。
それでも、いつかは店舗も構えてみたいものだ。
「ではやっぱり、最初は買取依頼を利用するのがオススメですね。もしも店舗をお探しの時は、ギルドが色々と相談に乗りますので」
「至れり尽くせりだな。ありがとう」
「いえいえ、これも仕事ですから。説明は以上ですが、何か他に質問はありますか?」
そう言われても、すぐに思いつくようなものではない。
あ、そういえば……。
「お姉さんの名前は、なんて言うんですか?」
「あぁ、そういえば名乗っていませんでしたね。私はレインと言います。以後、よろしくお願いしますね」
「レインさんか。こちらこそ、これから色々とお世話になると思うのでよろしくお願いします」
カウンター越しに頭を下げ合って、俺たちはどちらからともなく笑い合う。
「それじゃ、いつまでもここを占領しているわけにもいかないからそろそろ行くよ。また近いうちに来ると思うけど」
「はい、ではお待ちしていますね」
笑顔で手を振ってくれるレインさんに別れを告げて、俺は商人ギルドを後にする。
さて、これで俺もこれから商人の仲間入りだ。
この世界では、絶対に金持ちになってやるからな。
そんな決意を胸に秘めて、俺は商人としての第一歩を踏み出したのだった。
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