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もちろん騙される俺も悪いんだけど、騙す方がもっと悪いに決まっている。
結局あのバカは一年もしないうちに借金を焦げ付かせ、挙句の果てにそのまま雲隠れ。
形態は解約して家はもぬけの殻、誰一人連絡を取ることはできず今となっては生きているのか死んでいるのかさえ分からない。
そんな状況だから、借金の矛先は当然のように連帯保証人である俺の方へ向かってくる。
しかも借りていたところが質の悪い金融業者で、取り立てはまさに悪魔のようだった。
いや悪魔の方が少しは優しいかもしれない。
自宅から職場から、果ては実家まで。
おおよそ俺の立ち寄りそうな場所全てにアポなしで現れては、金を返せと喚き散らす。
そのせいで仕事をクビになってしまった時には、こいつら本当に借金を回収するつもりがあるのかと疑問に思ったほどだ。
それでもバイトを掛け持ちして、借金取りには土下座して泣き落として、なんとかまともな返済計画を組むことはできた。
そんな風に俺を人生のどん底に落としたのが、あのバカ以外に居たっていうのか?
「うん、その通り。話せば長くなるんだけど」
そう前置きをして、男は真剣な表情で語り始めた。
「信じられないとは思うけど、僕は神なんだ。しかも割と全知全能の神。とは言っても、君の住んでいる世界とは別の世界の神だけど」
「すでに意味わかんないんだけど。とりあえず、お前が頭のイカレたやばい奴ってのは分かった」
いきなり神を自称するなんて、どう考えてもまともな思考をしているわけがない。
そんな俺の考えを知ってか知らずか、男は微かに苦笑いを浮かべる。
「気持ちは分からないでもないけど、とりあえず全部聞いてくれると助かるな。……それで、僕は全能の神なんだけど、それでもよその世界に干渉するほどの力は持っていなかった。でも、ある時見つけたんだ」
そこで一度言葉を区切ると、自称神の男はまるで大発見を披露するように無邪気に笑う。
「それを見つけたのは偶然だった。なんと僕、個人単位であればよその世界の人間でも運命操作することができたんだよ!」
すごいどや顔でこっちを見てくる男が非常にうざい。
結局、それと俺のどん底人生とどう関係するんだよ?
「あれ? 分からない? 僕は運命操作ができる。そして君は、ある日から唐突に運が悪くなったとしか思えないほどどん底の運命に落ちてしまった。これはつまり……」
もったいぶるような男の言葉は、鈍い俺でもその意味を十分に理解することができた。
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