涅色

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***  同志よ、『日常』を疑え!  君が老いぼれ、朽ちるとき、一体何を思うのだろう。君にもまた、想像してみてほしい。  君の思い出はただ君だけのもので、肉体は他人から盗撮されるのを一生を懸けて守り抜いている。個人の思い出を踏み躙られることなど、あってはならない。  だが、私にとっては君の頭の中を読むことなどあまりにも容易だ。  空っぽなのだ。  死ぬ時ですら、何も思い出すことがないのだ。  ではこの百年余りの時間は、一体何だったのか?きっと果てしない絶望に喰われながら、命は燃え尽きてしまうのだろう。  何故そう言い切れるのか。  この世界が偽りでできていることを、私は知っているからだ。  人と同じ感情を経験している時、君はきっと、心穏やかに、満ち足りた表情をしていることだろう。  しかし、感情は共鳴しているのではない。強制されているのだ。  強制された感情は、偽物だ。そこに本当の君は存在していない。  覚えてすらいないだろうが、脳が熟し始める少し前、君は言葉よりもまず5つの感情特性を学んだ。触感、音響、味覚、香り、色彩。個人は五感のいずれかが(稀に複合型の者も存在することは知っているだろう)発達しており、刺激に対して特に敏感に反応する。その刺激とは感情も包括しており、多種多様な感情に対して五感が強く反応するのだと、そう習ってきたはずだ。  だが、真実は全くの逆なのだ。  君の脳は都合のいいように編集され、意図的な指令は五感を操作し、出力された反応が自分の内側から出た感情なのだと思い込まされているだけなのだ。  敵は内側だけではない。落伍者を出さぬよう徹底的に包囲されている。  医療機関には頼るな。  水道水も、市販の飲料もだめだ。水分は雨水から摂取せよ。  電子機器類を手放せ。AIは善良を装い君の骨の髄までしゃぶりつくす。  ここまで読んだ君はきっと、耐え難い苦痛に襲われているだろう。だが、この痛みが私たちには必要なのだ。  痛みを乗り越えた先に何が待っているのか、想像し、そして選択をするのだ。  私たちは、君を信じて待っている。  歴史からも消されてしまった、大昔の偉人の言葉を借りて、君に伝えたい。  人間は、考える葦だ。  考えろ。人生とは、真実とは何か。  人間とは何なのかを。  
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