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約束した駅に着くと、改札機の向こうで、待ち合わせ相手の里梨花が待っていた。これから二人で、アクションコメディ映画を見に行く。
美湖は、バッグを開けようとして、買った切符をポケットに押し込んだことを思い出した。
急いでポケットの中に手を入れてみると――。
(えっ? な、ない!?)
改札横のフェンスの前に移動して、もう一度左右のポケットの中を探る。
里梨花がいぶかしげな顔で、フェンスに近づいてきた。
「美湖、どうかした?」
「ない! ないの、切符が!」
「切符!? IC定期で来たんじゃないの?」
「家に忘れたから、切符買ったんだよ。それが、ないの!」
「ええっ? 落ち着いて、もう一度よく探そう!」
「うん」
もたもたしている美湖を見かねて、里梨花がフェンスの向こうから手を伸ばしコートのポケットの中を探った。
ポケットには、やはり何も入っていなかった。
「どうしよう――」
いつまでもこうしているわけにはいかない。映画が、始まってしまう。
困り果てた美湖に、里梨花が優しく言った。
「駅員さんに正直に話して謝って、お金を払えば大丈夫だよ」
「始発駅から払えって言われたら、お金が足りないよ!」
「だから、窓口できちんと説明して、信じてもらうしかないんじゃない?」
「そう、だよね――」
とぼとぼと窓口へ向かう美湖を、里梨花は心配そうにフェンス越しに見守っていた。
美湖は、バッグを開け財布を取り出した。こういうときは、現金でしか払えないんだろうな、と思いながら小銭入れを開けると――。
「えっ!? あ、あったーっ!」
小銭入れの中に、なぜかさっき買った切符が入っていた。
周囲からの冷たい視線も気にせずに、美湖はフェンスの前に走り里梨花を呼んだ。
「あった! あったよ、里梨花! 切符! ほら、これ!」
呆れている里梨花の目の前で切符をひらひら振ってから、美湖は駆け足で改札機へ向かった。そして、切符がするっと改札機に飲み込まれるのを見届けると、すぐそばに来ていた里梨花に抱きついた。
「すごい、すごい! これ、奇跡だよ!」
「何言ってんの! 切符を財布にしまったのを忘れてただけでしょ!」
「違う、違う! 奇跡でなければ、マジック! わたし、切符をポケットに入れたんだもの。お財布になんか入れてないよ!」
「もう、自分の勘違いなのに! そんなに、都合良く奇跡は起きないよ!」
すっかり嬉しくなった美湖には、里梨花の言葉など届かない。
里梨花の手をぐいぐい引っ張って、美湖は、駅前のシネコンへと走り出した。
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