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 青果売り場の近くをうろうろしていたら、ポンと肩を叩かれた。  ぎょっとして振り返ると、千裕が不思議そうな顔をして立っていた。  かごには、バナナと牛乳パックが入っている。 「何してんの? さっきからぐるぐる歩き回って? 何か探し物か?」 「う、うん。実は――」  美湖は、わらにも縋る思いで、スマホが見当たらないことを千裕に話した。 「また、ポケットか? リュックに入ってるんじゃないか?」 「そんなわけないよ! 買い物をしているときは、リュックは背中にあったんだから」 「そうか――。とりあえず、お客様カウンターへ言って、届いてないか聞いてみたほうがいいな」 「そ、そうだね」  千裕の買い物の会計をすませた後、二人でカウンターへ行って、スマホをなくしたことを伝えると、学生証を見せてくれと言われた。悪戯や悪ふざけの防止のためだと言う。  そんなこともあるのかと思い、美湖は学生証を出そうとリュックの口を開いた。 「えっ!? やだ!?」 「どうした、美湖?」  千裕が、美湖のリュックの中を覗いてみると、ペンケースの上にちょこんとスマホが載っていた。  美湖は、店員に慌てて頭を下げ、リュックのファスナーを閉めた。  店を出ると、美湖は大きなため息をついた。  「ちょっと待ってろ」と言い残して、千裕は駐輪場へ自転車をとりに行った。  やがて、自転車を押しながら戻ってくると、美湖の買い物袋と自分の買い物袋を、ハンドルに引っかけながら言った。 「何か心配だから、家まで送ってくよ」 「そんなの、悪いよ。わたし、もう大丈夫だから――」 「いいから」  動き出した自転車の後ろから、美湖はゆっくり歩き出した。  この間の切符以上に、今日のスマホのことは納得がいかなかった。  この前は、美湖に合わせて、「『奇跡』を神様に感謝しろ」なんて言っていた千裕も、今回は呆れているに違いない。それを思うと恥ずかしくて、美湖は千裕に声をかけられなかった。うつむいて、黙々と家までの道を歩き続けた。  美湖の家の門の前まで来ると、千裕は美湖の買い物袋をハンドルから外し、にっこり笑って差し出した。 「『二度あることは三度ある』って言うからさ、そのコートのポケットには気をつけろよ」 「千裕――、あ、あの、今日はありがとう」 「たいしたことはしてないよ。それより、美千留叔母さんがよく言ってただろう? 『大事な物は丁寧に扱いなさい』って。そのコート、もしかして叔母さんからのプレゼントか?」 「う、うん、そうだけど――」 「そうか。それじゃあきっと、美湖が大事な物を本当になくす前に、コートのポケットが片付けてくれているんだよ。美千留叔母さんは、魔女だからなあ――。俺はそんな気がする――。じゃあな!」  自転車に乗り、今来た道を戻っていく千裕の後ろ姿を見つめながら、美湖は、中学二年生のときのできごとを思い出していた。
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