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土曜日の昼前、美湖がツイードのコートを着て、「千裕と出かけてくる」と伝えると、母はものすごく驚いた顔で言った。
「えっ! あ、あんたたち、いつの間に?! 別れてから、ずいぶん立つわよね?」
「付き合ってもいないんだから、別れたりしていません。ママが言っていること、わけがわかりません」
美湖は、自動音声みたいな淡々とした口調で答えて、むくれながら家を出た。
美湖としては、千裕と喧嘩をした覚えはない。もちろん、絶交とかもしていない。
幼なじみだけど、一緒にいる機会が減っていただけ――。
千裕を嫌いになったり、千裕から嫌われたりもしていない――と思う。
(近づいたり離れたり、きっと、わたしたち年を取ってもこんな感じなんだろうな――)
改札口で待っていた千裕に、目の前を通り過ぎた老人の姿を重ねながら、ちょっとほっこりした気分で、美湖はバッグからIC定期のケースを取り出した。
千裕の用事は、「母親の誕生日プレゼント選びを手伝って欲しい」ということだった。いろいろな店舗があるので、四駅先のショッピングモールへ行くことにした。
「これから寒くなるから、マフラーとか手袋がいいんじゃない?」
美湖が提案し、手袋やハンカチなどのファッショングッズが並ぶ店へ入った。
「マフラーは、予算オーバーだ」と千裕が言うので、二人で手袋を選んだ。
「やっぱ、美湖についてきてもらって良かったよ。俺一人じゃ、絶対に店に入れなかった」
女性客で混み合う店内で、支払いをすませた千裕がぼそっと言った。
その後は、千裕は書店へ、美湖はファンシーグッズの店へ行きたかったので、いったん別行動をとることにした。
「中央ホールで福引きやってたから、三十分後にそこで会おう」
「うん、二人のレシート合わせたら、二、三回引けるかもしれないよね?」
「レシート、なくすなよ!」
「わかってる!」
そう言って別れたが、店に入った途端、美湖の頭は「かわいいー!」でいっぱいになり、ほかのことは隅っこに押しやられてしまった。
妹の愛菜のために、早めにクリスマスプレゼントを買っておくつもりだった。愛菜が好きなキャラクターのポーチとミニタオルを選び、レジに持って行く頃には、待ち合わせの時刻になっていた。
美湖は、レシートをポケットにねじ込み、急いで中央ホールに向かった。
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